マイル編

「飛べない世界」でも堅調だった

地上で回すマイル経済
“良質”な顧客を収益に

コロナ禍で航空需要が激減しても、マイレージ・クレジットカード事業の顧客は離れなかった。
航空一本足の事業構造が抱える脆弱性を痛感した両社とも強化を急ぐ。
米国系には利益の3割を稼ぐところも。成長余地はまだある。

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ANAホールディングス(HD)が約3700万人、JALは約3000万人の会員を抱えるマイレージ(マイル)事業は不思議な「引力」を持つ。その魅力は何といっても、「特典航空券」に交換でき、お得に旅に出かけられること。この魅力を生かし、ANAHDとJALは収益につなげている。

一つはマイルを外部に販売するビジネスだ。コンビニやタクシー、ホテルなど生活のあらゆる場面でマイルはためられる。各事業者が誘客のため、ANAHDやJALからマイルを仕入れ、消費者に還元しているわけだ。マイルの使い道は自社商品の特典航空券が多く、利幅が大きい。

タクシーアプリ「GO」でもマイルをためられるように。経済圏の拡大を急ぐ
使い勝手の良さで先に行く共通ポイント「Tポイント」。ライバルは多い(写真=時事)

もう一つはクレジットカード事業だ。航空券を購入する際、利用航空会社のクレジットカードで決済するとマイルを多くためられる。航空利用の頻度が高い人は航空系のカードを作り、よりマイルをためるためにあらゆる支払いを集約する。その決済手数料などを得られる。

航空利用者は所得が高い傾向にある。ANAHDの調査によると、利用客の4割が世帯年収1000万円以上だという。当然、購買力は高い。通常、クレジットカードの年間決済額は1枚当たり平均数十万円が一般的だが、JALカードは100万円を超えるという。決済額が増えれば、手数料収入などが大きくなる。

コロナ禍下でもマイル・カード事業は堅調だった。「飛べない世界」で特典航空券を利用する機会がなくても「いつか飛べるときのために」と考える消費者は離れなかったのだ。航空一本足の事業構造の脆弱性を痛感したANAHDやJALにとって非航空事業の拡大は急務であり、両社ともマイル・カード事業をその中核に位置付けている。

米系は利益の3割稼ぐ

成長余地は大きい。先行するのは1980年代に先行してマイレージプログラムが始まった米国だ。「日本のような『陸マイラー』のような文化はない」(米航空会社広報)ものの、消費者の実生活に溶け込んでいる。米ユナイテッド航空の場合、マイレージプログラムは1億人の会員を抱え、2019年のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は18億ドルと、ユナイテッド全体の3割弱を稼いだ。

ANAやJALがマイルプログラムを始めたのは1990年代。規模はまだ小さい。ANAHDのマイル事業を中心とした非航空事業の売上高は、コロナ禍前で、年間約2000億円と全体の1割ほどだった。

両社の戦略は共通している。マイルをためられる機会、使える機会を多様化し、日常的なサービスを通じてマイルをためる人を指す「陸マイラー」を増やして経済圏を広げ、それに応じてカードの決済額を増やしていくというものだ。

「一番注力するのはマイルを使う際のお得感を磨くこと」。こう話すのはJALの大森康史執行役員だ。

ためる機会を増やすため、自社でもふるさと納税やEC(電子商取引)サービスを拡充して利用額に応じてマイルを付与したり、住信SBIネット銀行と組んで契約時にマイルが付与される住宅ローンを提供したりといった取り組みを強化している。

マイルで売上高4000億円に

その上で特典航空券の使いやすさを追求し、マイルをためるモチベーションを高める。18年12月からは国際線で繁忙期でも通常よりも多くのマイルを使えば航空券を予約できる「特典航空券PLUS」を開始し、21年11月からは国内線でも似た仕組みを取り入れた。「本来のマイルの魅力に徹底的にこだわる。それが結果的にマイルの売値を上げ、利幅を広げることにもつながる」(大森氏)

「マイルの短所は使い道が限られるところ」。こう話すのはANAHD傘下でマイル事業などを手掛けるANA Xのマーケティング戦略部企画チームリーダー、金子和靖氏だ。

KDDIと組んで電力の契約にマイルを付与する新たなサービスを始めるなど、JALと同様、ためる機会を増やす取り組みを進めると同時に、「使い道に『ANA色』を出していく」(金子氏)。ANAHDは全国に支店を抱えており、マイルを使える店舗を、支店網を活用して開拓する考えだ。

今後のマイル事業の拡大の鍵はどこにあるのか。野村総合研究所CXコンサルティング部の冨田勝己グループマネージャーは「マイルのメリットでもありデメリットでもあるのは、ユーザーが偏っていること」と話す。航空利用者がほとんどで、高所得層が多いという顧客基盤に対し、例えば「高級車のディーラーは興味を持っても、地場のスーパーマーケットは見向きもしない」(冨田氏)。航空会社ならではの顧客基盤を生かした戦略が必要になる。

ANAHDはマイル・カード関連ビジネスを「プラットフォーム事業」と位置づけ、今後約5年で売り上げ規模をコロナ禍前の2倍となる4000億円程度まで広げる計画。JALは24年3月期のEBIT(利払い・税引き前利益)を1700億円と20年3月期の約2倍に伸ばす計画で、マイル・金融関連事業には120億円の増益を託す。

この非連続的な成長の実現には、例えば顧客の購買履歴などのビッグデータを分析・加工して、ビジネスに結びつけるなどといった、顧客基盤を「メディア」的に活用する発想も必要になってくるだろう。

日経ビジネス2021年11月8日号 32~33ページより

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