(写真=的野弘路)

コロナ禍で生きた
破綻の教訓

拡大路線を取ったANAHDを横目に、JALが進んだ保守的な事業戦略。
11年前の経営破綻の経験は今も心に刻みつけられている。
コロナ禍では先手先手で「守りながら攻める」一手を打ち続けた。
日本航空 代表取締役専務執行役員 菊山 英樹
1983年日本航空入社。07年に経営企画室部長、10年に執行役員経営企画本部副本部長。13年専務執行役員路線統括本部長。16年取締役、19年取締役専務執行役員財務・経理本部長。20年より代表取締役専務執行役員。米州支社での勤務などグローバル経験も持ちながら、航空会社の保守本流ともいえる部署を統括してきた。

(写真=的野弘路)

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破綻後の10年間、リスクを回避しながら、堅実に利益を積み上げつつ、財務規律もしっかり保つことを重視してきました。

リスクを全く取らないわけではありません。ノーリスクで成長できるのであれば誰も苦労しませんから。でも経営破綻の背景には、過度なボラティリティーに依存した冒険主義的投資がある。それは身をもって思い知らされたことです。

もちろん他にも至らぬ部分はありましたが、立ち直るチャンスを頂いたのなら、その反省を生かすのは大前提。この10年間のような事業運営になったのは必然的だったのだろうと思います。

破綻後は競争環境を保つため、ドル箱の羽田空港の発着枠の配分などで競合のANAホールディングス(HD)への優遇が続きました。保守的な事業戦略を取らざるを得なかった、という側面もあるように思えます。

それは事実でしょう。ご存じの通り、「8.10ペーパー(JALの新規路線の開設などを事実上抑制する国土交通省の指針)」はその典型的なものです。指針が示された当時(2012年)は路線の設定などを担当していましたから、余計にフラストレーションは強く感じていました。競争環境を確保して利用者の利便性を高めるという観点から見ればどうなのかと。その結果として、シェア拡大に走りようがなかった部分はある。

でももしそうした制約がなかったとしても、経営破綻前のような、収益が出るかどうかにかかわらずシェアありきで動くような事業運営は確実にしていないはず。(経営再建時に取り入れた)部門別採算の仕組みではけん制機能が働きますから。拡大路線を走っていたら、コロナ禍のインパクトはもっと大きくなっていたかもしれませんね。

おっしゃる通り、保守的な事業展開を進めてきたからこそ、欧米や国内の同業他社に比べると財務基盤は強固です。

相対的に間違いなく有利ではあります。でも、コロナ禍でボラティリティーが高まる今、それでも不安に感じる部分はあります。

ただ、コロナ禍は象徴的ですが、航空ビジネスには(地政学的リスクなど様々な)潜在的なリスクがあります。その上で、成長に必要なリスクをどこまで取るかという判断を適切に下してきたつもりです。

ANAHDはJALの姿を尻目に拡大路線に突き進んだからこそ、財務的に苦しくなっているとの見方もできます。

でも逆の立場だったら同じことをやっていたかもしれませんから。結果論にすぎませんし、会社それぞれの立場でそれぞれの経営判断があって、覚悟と責任が伴います。とやかく言うつもりはありません。

20年11月には財務体質が比較的良好にもかかわらず、公募増資の実施を発表しました。

我々が大きな赤字を出し、相当純資産が毀損するというのは分かっていました。困ってからでは打ち手は限られます。その時点でどういう手が打てるのかを早めに市場に対して訴えるべきだと考える中、毀損した純資産を埋め合わせるにはやはりストレートに、公募増資が選択肢のトップに来るべきだろうと考えました。

市場には株式の希薄化という影響を与えます。

昔のJALには、考えに考えて、状況の変化を見極めてから結論を出した結果、判断が遅れてしまうというケースは資金調達に限らずままありました。「タイミングを逃した」という後悔はしたくない。

希薄化については、その影響をどう打ち返すかを説得力のある形で語れるか。経営の覚悟として示す必要があります。そこで我々は1株当たりの純利益をコロナ禍前の水準まで戻すと掲げて、市場に諮りました。投資家に対する筋は通せたと思っています。

足元の数字を見ると、ANAHDに比べ、JALの赤字幅が相対的に大きいです。営業費用の削減幅もANAHDに比べると見劣りします。

特に象徴的なのは人件費かと思いますが、もともとの数字が既に経営破綻を経て(スリム化した結果)の水準でした。比較してもあまり意味がないとは思っています。人件費に限らず、固定費をどう管理するかが大事ですが、我々はコロナ禍前から固定費の変動費化を進めてきました。

例えば、我々は17年に旅客管理システムを、自前のものからクラウドサービスに切り替えました。国内線まで移行するのはかなり難しいのですが、全面的に置き換えたわけです。初期費用は膨らんだ。ただ、自前のシステムであれば減価償却費という形で固定費がかかりますが、新システムは客数に応じて費用を支払う形になっている。旅客システムの運用コストを変動費化できたわけです。

(費目上の)固定費よりも、実質的な固定費の低減に向け、どれだけ努力できたかの方が重要です。この「実質固定費」の削減を続けていけるか、需要の回復局面でもそこをきちんと示すのが我々の最大の責任です。

今後、JALは非航空事業を拡大させる方針です。航空とは違う需要の波を描く事業を育てる必要があるということなのでしょうか。

全く別かどうかは別としても、異なる(需要の)動き方をする事業を組み合わせてポートフォリオのベースに据えるべきだと思っています。

ただ、ノウハウがない分野にリスクを取って投資していくのかとなると、それは少し違う。我々が持っているノウハウや資産をどれだけ生かせるかという視点は欠かせません。

最後に、赤坂祐二社長は菊山さんより年次が下ですよね。どういう関係性なのでしょうか。

その昔、経営破綻前(09年)に(当時の前原誠司国土交通相が設けた)「JAL再生タスクフォース」として5人組が乗り込んできまして。その下に手足となって働く各部門の人間が何人か集められました。どういうチーム構成がよいか、経営企画室部長だった私はその編成を考えることになりました。

その時に無理やりと言っては変ですが、安全推進本部部長を務めていた赤坂にメンバーに入ってもらいました。一連の議論の中で安全に関する視点は外してはいけないと思っていて、その分野を任せるなら彼だと。赤坂は整備畑なので、接点はあまりなかったのですが、勝手にそう思っていました。

うちの役員室は大部屋なのですが、私の真正面に赤坂が座っています。普通、社長の時間を取るのはなかなか大変なわけですが、目の前にいるので何かあれば様子を見てすぐに話しかけにいきやすい。良い関係を築けていると思っています。

ノーカット版はこちらから

日経ビジネス2021年11月8日号 26~27ページより

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