(写真=的野弘路)

コロナ禍で逆風も、
拡大路線に後悔なし

積極的に路線網を開拓してきたこの10年。突然の危機で痛手を負った。
ただ、攻めて利益を生んできたからこそ、アフターコロナが見えてきた。
売り上げを増やし、コストを抑える。基本に立ち返って次を見据える。
ANAホールディングス 代表取締役専務執行役員 芝田 浩二
鹿児島県出身。1982年、東京外国語大学外国語学部卒業後、全日本空輸(現・ANAホールディングス)入社。2005年、アライアンス室長に就任。提携先の海外勢との調整を取り仕切る。12年執行役員、20年取締役常務執行役員。21年から現職。グループ経営戦略を担当する。

(写真=的野弘路)

Scroll down

新型コロナウイルス禍に振り回された1年半でした。

ずっと駆け足で対応に追われ、あっという間に今を迎えました。できる限りの施策はやってきましたが、出口、明かりが見えない中での辛抱はきつい。その中でも従業員にはよく我慢してもらって、協力を得てこられたという思いが強いです。

コロナ禍を経て、相当な規模のコスト削減を実施してきました。特に人件費については、従業員に賞与や賃金のカットなど待遇面で大きな負担を強いています。

もしリーマン・ショック級の危機が来たら、うちの経営はどうなるのか。コロナ禍前から常に役員の間でシミュレーションし、取るべき対策を考えていました。ただ、ここまで対策を深掘りすることになるとは思っていなかった。用意していたメニューの最後の選択肢として、従業員の協力があったということです。

2021年3月期は4647億円の営業赤字となりました。その赤字幅の背景に、超大型機「A380」の導入に象徴されるような、国際線を中心とした拡大路線の反動を指摘する声もあります。

過去、進めてきた戦略は正しかったという確信があります。08年のリーマン・ショック以降、コスト改革、構造改革に取り組んできました。だからこそ、11年3月期以降、連続して黒字を出してこられた。その結果、利益が蓄積され、その蓄えで今回の大波にもこらえられました。

企業の成長は拡大路線なくしてはなかなか難しい。日本の人口減少の問題もあり、国内線は少なくとも大きな成長の下支えにはならない。そこで国際線に照準を合わせて成長を加速させてきました。

国際線の場合、世界的なネットワークをどう構えるかが航空会社の強みになります。もちろん、世界中をANA1社でカバーできるネットワークと競争力を持てればいいのですが、それはかないません。そこで(加盟する航空連合の)「スターアライアンス」も活用します。自力での展開と航空連合を通した海外勢との連携。この両方を兼ね備えながら秩序ある成長を遂げてきたと感じています。

確かに「A380」のイメージが強い国際線の拡大路線ですが、米ボーイング製の中型機「787」を中心に堅実に進めてきた印象もあります。

市場特性を鑑み、しっかりとマーケティングをした上で新規路線を就航してきました。決してむちゃをしたという認識はない。A380に関してもそうです。適材適所の観点から言えば、この機材は米ハワイ路線に最適です。需要が戻り、フル稼働すれば利益貢献してくれる機材です。

路線網を構築していく上で、日本航空(JAL)のように海外勢とのコードシェア(共同運航)や共同事業を重視する選択肢もあったはずです。

もちろん、その観点も取り入れてきました。だからこそ、フィリピン航空(の親会社)やベトナム航空に出資してきたわけです。両社ともコロナ禍で業績を落としていますが、互いにこの波を乗り切れれば、この連携は再びアジア市場に利便性をもたらすでしょう。結果的にANAとしての競争力も高まり、収益性の向上につながると期待しています。

コロナ禍以降、随時発表してきた需要の先行きに関する予測ですが、実績が下振れし続けてきました。

楽観的に需要の見通しを立ててきたつもりはありません。その都度、客観的に最善の見立てをしてきました。国際航空運送協会(IATA)が出す需要予測をうのみにせず、各国の感染者数の動向や大学の研究資料などを分析・加工し、足元の利用動向なども加味し総合的に勘案してきた。

ここにきて、ワクチン接種の進捗が材料の一つとして加わり、予測精度はずいぶんと高まったと思っています。決して楽観はしませんが、現状の利用動向を見るとかなり強い需要の戻りを感じています。

一方、難しいのが国際線です。諸外国が国際的な人の往来の再開に動く中、日本は入国制限などが厳しすぎると指摘する声も聞かれます。

企業の出張意欲は高まっている。ただ、帰国時の隔離措置が邪魔をしています。この制限の緩和はお願いしたいです。また今は、海外のビジネスパーソンの日本への入国が実質的に難しい。ここを開いてもらわないと、国際線は依然厳しいままです。

今後もANAを支えるのは高単価なビジネス需要なのでしょうか。

そうです。国際線についてはコロナ禍前の水準、あるいはそれ以上のビジネス需要を見込んでいます。

片野坂真哉社長は「ビジネス需要はもうコロナ禍前の水準に戻らない」と話しています。社内で見通しは共有できていますか。

回復のスピードをどう見るのかという問題でしょう。そこは問題ありません。

13年の持ち株会社制移行後、経営の指示系統が複雑になっているとの指摘が社内外から上がっています。

迅速かつ合理的な決定ができる体制になっているとは思っています。ただ、HDの傘下に事業会社の全日本空輸(ANA)があって、持ち株会社とANAは同一視されがち。これは本来のあり方からすると少しいびつです。非航空事業などが伸びていけば、あるべきHDの姿ができてくる。

公募増資の実施もJALの後手に回りました。時期は適切でしたか。

あのタイミングしかなかった。投資家からもそう評価を受けていると感じています。我々の意図していた額は十分確保できていますから。

財務基盤ではJALと差がついています。その中でアフターコロナではどう競争に打ち勝ちますか。

その差は有利子負債の大きさに尽きると思いますが、挽回するにはやはり利益を上げていくしかない。売り上げを増やし、コストを抑えるということです。航空事業であれば、デジタルを活用してより快適かつシームレスな旅を提供。サービス品質を高め、収入を上げる。LCCと組みながら市場の要求をくみ取っていくことも必要です。貨物事業の好調ぶりもしばらく続くはず。コスト面では、デジタルを活用しながらいかに生産性を高めるかが重要です。

ANAHDは10月29日、21年4~9月期決算が1160億円の営業赤字となった一方、下期は90億円の赤字、22年1~3月期に限れば黒字転換するという業績見通しを示しました。

需要低迷は底を打ったと思いたい。これでも保守的な見通しで、「Go To トラベル」の再開による好影響などが加われば、上振れする可能性もあります。今後も需要の波はあると思いますが、コスト削減を継続できれば黒字化は近い。暗がりの中の辛抱を続けてきましたが、明かりは見えつつあります。

ノーカット版はこちらから

日経ビジネス2021年11月8日号 24~25ページより

次の記事を読む

デジタル監修:株式会社 DigiDock Consulting / 製作:阪西 孝介