「最適な睡眠時間」は一定ではない

 最適な睡眠時間は個人差があると聞くと、「自分に最適な睡眠時間」を知りたくなる。例えば6.5時間なら、毎晩12時半に寝て7時に起きるのが理想的ではないか。しかし、「睡眠時間は意識的にコントロールできるものではありません」と内山主任教授は苦笑する。

 睡眠時間は個人差だけでなく、季節による違いもある。日照時間の長い夏は短く、日照時間の短い冬は長くなる傾向がある。同じ人でも、夏と冬では睡眠時間が30分ほど変わるケースも少なくないという。また、日によっても必要な睡眠時間は微妙に変わってくる。

 「睡眠時間をコントロールしたいという気持ちは分かりますが、厳密に管理しようとしても健康を害するだけ。朝起きる時間だけしっかり決めて、就寝時刻は自然に任せるのが一番です」と内山主任教授はアドバイスする。

 毎日同じように暮らしていても、早く眠くなる日もあれば、逆にいつまでも眠くならない日もあるだろう。眠くないときは睡眠が足りているのだと思って、無理にベッドに入らず、眠くなるまで起きていればいい。「毎晩12時までには必ず眠らなければ!」という硬直した考え方は、「眠れない」という焦りを招き、不眠症につながりやすい。もっと気楽に考えよう。

 ただし、起床時刻だけは一定に保つようにしてほしい。休日の寝坊も平日の2時間以内に。休みだからと昼まで寝ていると体内時計が狂い、睡眠の質が悪くなってしまう。

日本人は睡眠時間が短い?

 日本人は外国人と比べて睡眠時間が短い、と言われることが多い。その根拠としてよく挙げられるデータが、例えばOECD(経済協力開発機構)が2011年に行った調査だ。加盟28カ国中、男性は7時間41分で2番目に、女性は7時間36分で最も睡眠時間が短かった。

 しかし、考えてみると男女とも7時間半以上…。これって短いか?

 「このOECDの調査は、正確には睡眠時間ではなくて“ベッドで過ごしている時間”を調べたもの」と内山主任教授。

 「欧米人はベッドにいる時間が長いのに対し、日本人はベッドに入るとすぐ眠る。ベッドにいる時間と睡眠時間との差が少ないだけで、実際の睡眠時間は大して短くありません。不眠の頻度を調べると、むしろ日本はヨーロッパ諸国よりもずっと低いんです」(内山主任教授)

 もちろん多忙なビジネスパーソンは睡眠不足のケースが多いが、日本人全体の睡眠時間が特別短いわけではない。前述したように、6年後の死亡率が最も低い睡眠時間は6.5~7.4時間。高齢者では「8時間眠らなければ!」と思い込んで不眠症になる人も少なくないが、誰もが毎日8時間眠る必要はないのだ

内山真(うちやま まこと)さん
日本大学医学部精神医学系 主任教授
内山真(うちやま まこと)さん 1954年生まれ。東北大学医学部卒業。ドイツ留学、国立精神・神経センター(現精神・神経医療研究センター)精神保健研究所精神生理部長などを経て、2006年より現職。日本睡眠学会理事。著書に『睡眠の病気』(NHK出版)、『睡眠のはなし』(中公新書)など。