仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。

 大切なプレゼンの前夜など、緊張が高まってなかなか寝付けないといった経験は誰にでもあることだろう。そんな緊張を体操によって和らげ、寝付きを良くしてくれる「筋弛緩法」というメソッドがある。これは不眠症の改善効果が高いことでも知られており、最近はテレビ番組でもしばしば取り上げられている。

 正式には「漸進的筋弛緩法」。もともとは1930年代に米国の神経生理学者エドモンド・ジェイコブソン博士が「不安を少なくする」方法として創案したリラクゼーション法がベースになっていて、それを不眠症の治療に応用したものだ。

 これまで多くの不眠症患者に筋弛緩法を指導してきた早稲田大学人間科学学術院助教の岡島義(いさ)さんは次のように説明する。

 「緊張・不安とリラックスは天秤の関係になっています。まず、体に力が入っていることを自覚する。その力を抜くことで筋肉をリラックスさせると、それが精神のリラックスにもつながり、安眠をもたらすわけです」

 実際、多くの不眠症患者に効果があった。これまでの研究を解析したところ、特に「寝付き」と「睡眠の質」の改善効果が高かったという。

寝る前に筋弛緩法を行うと「寝付き」と「睡眠の質」が改善
寝る前に筋弛緩法を行うと「寝付き」と「睡眠の質」が改善
慢性不眠症の患者50名(男女半々、年齢は24~79歳、平均39歳)を対象として、就寝前に筋弛緩法を4週間実施。「入眠困難」の項目では、寝付きにかかる時間が63分から28分に減少。「睡眠時間」は5.3時間から6.2時間へと長くなった。「睡眠の質」については、熟睡感を最大7点で回答させ、3.3点から4.9点に上昇した。 (Turner RM et al: J Consult Clin Psychol 47:500-508, 1979より引用、岡島氏が一部改変)
[画像のクリックで拡大表示]

高血圧、潰瘍、頭痛、頻尿にも効果

 「不眠症以外にも多くの効果があります」と岡島さんは続ける。

 身体に対する効果としては、高血圧や不整脈の改善が確認されている。また、胃潰瘍や十二指腸潰瘍といった胃腸の症状を予防したり、回復を促進したりする効果もある。緊張性頭痛には即効性があるし、頻尿の改善効果もある。次に精神に対する効果。イライラを解消し、心が穏やかになる。気分転換の効果も高く、作業に疲れたときに行うと頭がクリアになり、効率が良くなるという。

 不眠症の対策として行う場合は、就寝の直前に行うといい。ひと通りやり終えるのにかかる時間は15分程度だ。

次ページ 5秒力を入れ、20秒力を抜くことを繰り返す