仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。

暑かった夏もようやく終わり、爽やかな風を感じる季節になってきた。しかし、「夏にたまった疲れがなかなか取れない…」と悩んでいる人も少なくないだろう。今回はそんな方に贈る「疲労回復睡眠術」。大阪市立大学大学院疲労医学講座特任教授も務める疲労医学の第一人者、東京疲労・睡眠クリニック(東京都港区)院長の梶本修身さんに聞いた。
一般的なイメージでは、一日中歩き回った後に感じる肉体的疲労と、長時間のデスクワークをした後に感じる精神的疲労は別ものと考えられている。ところが梶本さんによると、実はどちらも本質的には変わらない。「疲労はすべて脳の中に原因がある。視床下部と帯状回という部分にある自律神経中枢が疲れるんです」という。
ここで改めて確認しておこう。自律神経とは、体の恒常性を維持するために全身に張りめぐらされた神経のこと。呼吸、消化・吸収、心拍数、発汗など、生きていくために必要な働きをコントロールしている。交感神経と副交感神経の2種類があり、緊張したときは交感神経が優位になって心拍数が増え、副交感神経が優位になるとリラックスする。
黙って息をしているだけでも自律神経は働いているが、肉体的・精神的ストレスがかかったときは特に酷使されることになる。その疲労を取る方法が“睡眠”だ。
梶本さんは「そもそも睡眠の最大の目的の一つが、自律神経の疲れを取ることです。自律神経が疲れないのなら眠る必要もないと言ってもいいくらいです」と話す。
質のいい睡眠とは、すなわち疲れが取れる睡眠のこと。睡眠の質を高めるには、どんなことをすればいいのか? 一つずつ見ていこう。
1. 寝る前の入浴は短めの半身浴がベスト
疲労回復法というと「温泉」を思い浮かべる人も多いだろう。森の香りの中、広々とした露天風呂で手足を伸ばすのは確かに気持ちがいいし、たまった疲れがお湯に溶けていくような気がする。ところが梶本さんは、「医学的に見れば、入浴で疲れが取れることはありません」と言い切る。むしろ長時間の入浴は自律神経を疲れさせて逆効果。温泉に行くとよく眠れるというのは、運動したのと同じく疲れた結果だという。
「体温を上げて汗をかくのは自律神経に負担をかける行為ですから、疲れている日はむしろお風呂に入らないほうがいい。実際、メジャーリーガーのダルビッシュ有投手は、登板した日はシャワーだけで済ませているそうです」(梶本さん)
遅くまで仕事をしてクタクタになった日は、自律神経も疲れて息切れしている。ダルビッシュ投手を見習ってシャワーだけにしたほうがいいだろう。
入浴が好きな人も、熱いお風呂に入って汗をかくのはNG。寝る前は38~40度のぬるめのお湯で、下半身だけ湯船に浸かる半身浴を10分程度するといい。「下半身を温めると副交感神経が優位になってリラックス効果があるので、眠りやすくなります」と梶本さん。ただし、上半身から汗が出てきたらやり過ぎだ。長湯せず、さっと上がるようにしよう。
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