仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。
睡眠薬に頼らず、食事の改善やサプリメントの服用で睡眠の質を改善する方法とは? (c)Katarzyna Bialasiewicz-123RF
健康の基本は「食事」と「運動」。これらはもちろん、「睡眠」にも大きく影響する。前回は「運動」を取り上げたので、今回は「食事」を見てみよう。栄養療法やサプリメントに詳しい松倉クリニック&メディカルスパ(東京都渋谷区)の松倉知之院長に聞いた。
そもそも現代人の食生活は「糖質過剰の一方で、たんぱく質が不足していることが大きな問題」と松倉院長は指摘する。
空腹時に糖質をたくさんとると食後の血糖値が急上昇する。それを下げようとして、すい臓からインスリンが大量に分泌されると血糖値は一気に下がる。このジェットコースターのような食後の血糖値の乱高下が最近注目されている「血糖値スパイク(食後高血糖)」だ。食後に眠気やだるさ、抑うつといった症状が表れるのも、高かった血糖値の急降下が影響しているのではと考えられている。
「糖質過剰は睡眠にも悪影響を与えます。血糖値が高い状態で眠ると、睡眠中に細胞を修復する成長ホルモンの分泌が抑えられ、睡眠の質が悪くなる。就寝前3時間はものを食べないほうがいいでしょう」(松倉院長)
たんぱく質の不足が睡眠の質に悪影響
最近は糖質のとり過ぎに注意する意識の高い人も増えてきたが、一方で見落とされがちなのがたんぱく質不足だ。全身の細胞の材料になるたんぱく質は、最も重要な栄養素といっても過言ではない。意外に思う人もいるかもしれないが、不足すると睡眠の質にも悪影響を与えるという。
「神経の興奮を抑えるGABAやセロトニンといった脳内神経伝達物質を作るには、まずたんぱく質、それからナイアシンをはじめとするビタミンB群が必要です。食事やサプリメントでプロテインとビタミンB群をとれば睡眠の質を改善できるケースが多い」と松倉院長は話す。
「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によると、成人男性は1日60グラム、成人女性は1日50グラムのたんぱく質をとることを推奨されている。しかし、実現できていない人も少なからずいる。「魚や大豆にもたんぱく質は含まれていますが、最も効率のいいたんぱく源は肉。日本人はもっと肉を食べるべきです」と松倉院長は話す。
食事でしっかりたんぱく質をとることが難しい人は、サプリメントやアスリートが使うプロテインを利用してもいいだろう。「クリニックでは体重1キログラムにつき1グラムのたんぱく質を1日の適量と考え、食事からの摂取量も考慮して、睡眠が不調の方には2包当たり5.77グラムのたんぱく質を含むサプリメントを1日2~3包服用してもらっています。プロテインの中には、口当たりを良くするため糖質を加えている商品もあるので、糖質のとり過ぎには注意してください」(松倉院長)。
ビタミンB群の1日当たりの必要摂取量も、性別、年齢別に「日本人の食事摂取基準」に示されている。「クリニックでは1日1粒で必要量をとれるサプリメントを提供している」(松倉院長)。
メラトニンの効果は確認済み
睡眠を改善するサプリメントは「プロテイン+ビタミンB群」の他にもいくつかある。
代表的なものはメラトニンだ。この連載でもしばしば登場する物質なので、ご存じの方も多いだろう。体内時計を司っているホルモンで、夜になると脳の松果体から分泌されて眠気を誘う。分泌が少ないと体内時計が不安定になり、夜ベッドに入ってもなかなか寝つけなくなってしまう。
「メラトニンの分泌は加齢によって減ることが分かっています。私はストレスによっても減るのではないかと思っています」と松倉院長は話す。
12人の高齢者を対象にした試験では、1日2㎎のメラトニン摂取によって明らかに睡眠の質が改善した(Lancet. 1995 Aug 26;346(8974):541-4)など、いくつもの論文で睡眠の改善効果が確認されている。飲むタイミングは就寝の1時間ほど前。日中に飲むと眠くなりやすいので注意しよう。
国内のドラッグストアでは販売されていないが、インターネットを見ると海外製の多くの商品が目に入る。「薬」ではないので処方せんは必要ない。しかし中には質の悪いものもあるので、購入に当たってはサプリメントに詳しい医師に相談したほうがいいだろう。「クリニックでは、必要なメラトニンの量を含むサプリメントを提供している」(松倉院長)。
ストレスホルモンを抑えるハーブも
「ビジネスパーソンの場合、不眠の原因としてはストレスの問題も大きい」と松倉院長。本来、ストレス反応とは外敵に対して戦闘や逃走の準備をする反応。筋肉にたんぱく質や糖を大量に送り、それ以外の消化活動や生殖活動などは抑えられる。そのために分泌されるのがアドレナリンやコルチゾールといったストレスホルモンだ。
アドレナリンは心身を興奮させ、コルチゾールは肝臓での糖の合成を促す。全身の筋肉に血液を回すため、どちらも心拍数や血圧を上げる作用がある。通常、これらストレスホルモンの分泌量は就寝時には下がるはずだが、ストレスが強いといつまでも下がらない。そのため興奮して寝つけなくなり、眠りも浅くなる。
「コルチゾールの分泌量が高いままだと血液中のリンパ球の割合が下がり、免疫力が落ちる。その結果、口内炎、顔面けいれん、耳鳴り、片頭痛なども起こしやすくなります」(松倉院長)
ハーブを使ったサプリメントの中には、これらのストレスホルモンの過剰分泌を抑えるものもあるという。「セントジョンズウォートにはアドレナリンを抑える作用が、アシュワガンダというハーブはコルチゾールの分泌を抑え、リラクゼーションを促進する作用があるといわれています」と松倉院長は話す。
「クリニックでは1日の必要摂取量を、セントジョンズウォートが1回300ミリグラムを3回、アシュワガンダは1回2000ミリグラムを3回としています」(松倉院長)
なお、セントジョンズウォートには脳内のセロトニン濃度を高めてうつ症状を抑える作用、アシュワガンダには免疫力を高める作用なども報告されている。日頃うまくストレスを発散することができず、疲れているはずなのにベッドに入ってもなかなか眠れない――。そんな人は、これらのハーブ系サプリメントを試してみてはいかがだろうか。
松倉知之(まつくら ともゆき)さん
松倉クリニック&メディカルスパ 院長

1962年生まれ。北里大学医学部卒業。北里大学病院形成外科を経て、98年より現職。臨床現場で積極的にサプリメントを使い、日本でいち早くボトックス、ブルーピール、レチノイン酸などを導入したことでも知られる。日本形成外科学会・日本美容外科学会専門医。
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