仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。
この連載で紹介してきたものも含めて、世の中には多くの“快眠法”が出回っている。その基本は生活習慣の改善だ。「毎朝決まった時間に起きる」「就寝前4時間以内に食事をしない」「週5日間は運動する」「寝る前にスマホやパソコンを見ない」などなど…。中には簡単なものもあるが、なかなか実行するのは難しいという人も多いのではないだろうか。
「もちろん生活習慣を変えられればベストですが、無理に変えなくても深い眠りは手に入ります」と話すのは、日本快眠協会の代表理事を務めるスリープケアマスターの今枝昌子さんだ。
生活習慣を無理に変えなくても、足裏マッサージで深い眠りが手に入る!? (c)Vladimir Gjorgiev-123RF
その方法とは、「寝る前に自分で足の裏をマッサージする」だけ。慣れれば片足30秒ずつ、両足わずか1分間でできるようになるという。どんなに忙しい人でも1日1分なら続けられるだろう。
不眠を訴える人たちの足の裏は硬い
今枝さんはもともとリフレクソロジーを学んでいた。睡眠に目をつけたきっかけは心療内科病院に勤めたこと。そこで出会ったうつ病、適応障害、パニック障害の人たちは9割以上が「眠れない」という悩みを抱えていた。彼らの足の裏を見ているうちに、今枝さんはあることに気づいたという。
「不眠を訴える人たちの足の裏は全員硬く、冷たく、指が縮こまっている。それがリフレクソロジーによって足裏の状態が改善されるにつれて、寝つきが良くなったり、中途覚醒が減ったり、睡眠状態も改善される人たちが多かったんです」(今枝さん)
今枝さんたちは31人の不眠症患者に、リフレクソロジーとアロマセラピー(マンダリンを使用)を指導した。不眠症の診断に使われる「ピッツバーグ睡眠質問票」で確認すると、受講前の平均点数は11.68点だったのに対し、2週間後は9.75点と明らかに改善(低下)した(第49回日本心身医学会学術講演会[2008年]で今枝さんが発表)。特に「睡眠の質」と「入眠時間」ははっきりと改善していた。
足裏マッサージとアロマセラピーの指導・実施で睡眠が改善
「第49回日本心身医学会学術講演会」(2008年)で今枝さんが発表。
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1~2週間で睡眠の質を改善
その後、今枝さんはリフレクソロジーをベースにした独自のメソッド「足裏快眠法」を編み出し、これまで1万人以上に指導してきた。中でも好評なのが1分でできるクイック・マッサージだ。今枝さんによると、「1~2週間ほど続けると、睡眠の質が良くなったと感じる人が多い」という。
睡眠改善のためにマッサージするのは、(1)親指、(2)他の指、(3)第二指から第四指の指の付け根-の部分だ。リフレクソロジーでは足の裏に全身を反映する「反射区」があると考え、そこを刺激することで対応する部分の血流が良くなるとしている。親指は「頭部」、指の付け根は「僧帽筋」(背中から首に至る表面の筋肉)の反射区になっているという。
さらに、デスクワークが多い人にお勧めの(4)「目の反射区」、酒席が多い人は刺激しておきたい(5)「肝臓の反射区」などもある。気になる人は、これらの部分も一緒にマッサージするといいだろう。
睡眠改善のためにマッサージする足つぼの場所
親指は「頭部」、指の付け根は「僧帽筋」(背中から首に至る表面の筋肉)、第二指と第三指の間の付け根は「目」、小指側の骨が出っ張っている部分の下は「肝臓」の反射区。そこを刺激することで対応する部分の血流が良くなるという。
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足裏のマッサージは手の親指を使い、強めに押すのが基本だ。自分でマッサージすると、なかなか力を入れにくいので、はっきり痛みを感じるくらい強く押してほしい。
では早速、具体的なやり方を紹介しよう。
1. 頭部の反射区(親指)
足の親指は頭部の反射区になっている。睡眠改善の上では最も重要な部分だという。
「頭はストレスの影響が最も出やすい部分。交感神経優位の過緊張状態が続くと、足の親指がガチガチに硬くなっています。ここを刺激することで副交感神経が優位になってリラックスする。中途覚醒も少なくなります」(今枝さん)
まず、親指の腹だ。片手で足を固定し、親指の根元を強く押す。そのまま残り少ないハミガキのチューブを絞るように、力を入れて指先まで押していく。
続いて親指の側面。手の親指と人差し指を使い、ペンチで挟むように親指の側面を根元からつかみ、そのまま絞るように指先まで押し上げる。外側よりも内側に力を入れること。
親指の側面は、手の親指と人差し指を使い、ペンチで挟むように親指の側面を根元からつかみ、そのまま絞るように指先まで押し上げる。(写真提供:今枝さん)
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2. 親指以外の指
親指以外の指は反射区ではないが、ここの血行が良くなると熱が放散され、深部体温(内臓や脳の体温)が下がって眠気をもたらす。眠くなると手足が温かくなるのは決して気のせいではない。逆に冬の夜など、足が冷たくて眠れなかった経験はないだろうか。
刺激するのは指の側面だ。手の親指と人差し指でそれぞれの指をギュッと挟み、根元から先端に向かってチューブを絞るように押していく。
3. 僧帽筋の反射区
指の付け根の盛り上がっている部分は肩の僧帽筋の反射区。ストレスによって交感神経が優位な状態が続くと僧帽筋が緊張し、肩こりの原因になる。したがって、「ここを刺激することで肩こりが解消する人も多い」と今枝さん。
骨と骨の間に親指を強く当て、指先に向かって1㎝ほど絞るように押し上げる。
以上、3カ所のマッサージが基本だ。毎日寝る前に続けよう。最初のうちは時間がかかるかもしれないが、コツをつかめば片足30秒程度でできるようになる。
4. 目の反射区
デスクワークが中心で目の疲れを感じている人は、ついでに「目の反射区」をマッサージしておこう。
目の反射区は足の裏ではなく、表側にある。第二指と第三指の間、付け根から1㎝ほど足首側の部分だ。ピンポイントの狭い反射区なので、指を動かさず、ツボを押す要領でグッと強く押すだけでいい。
5. 肝臓の反射区
少し飲み過ぎた日や接待など酒席に出る機会が多い人は「肝臓の反射区」をマッサージしておこう。肝臓の反射区は右足の裏(左足にはない)。小指側の骨が出っ張っている部分の下にある。
足裏マッサージを続けていくと、押したときの痛みが少しずつ減り、感触が柔らかくなってくるという。それとともに、睡眠の質が良くなることを感じられるはずだ。極めて短時間でできるので、まずは2週間試してみてほしい。
(図版:増田真一、ランタ・デザイン)
今枝昌子(いまえだ まさこ)さん
スリープケアマスター 日本快眠協会 代表理事

1965年生まれ。リフレクソロジーを学び、2004年より心療内科病院に勤務。09年より独自のメソッド「足裏快眠法」を1万人以上に指導。12年、
一般社団法人日本快眠協会を設立。日本睡眠学会会員。著書に『生活習慣を変えなくても、深い眠りは手に入る』(山と渓谷社)がある。
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