仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。
先進国の中でも日本人の睡眠時間は短い。毎日8時間なんて夢のまた夢。多忙なビジネスパーソンには、6時間眠ることが難しい人も決して珍しくない。
当然、睡眠に対する不満は強い。前回の記事「“深い眠り”を導く! 3分間でOKの快眠ストレッチ」でも紹介したように、2016年の国民健康・栄養調査によると19.7%の人が「睡眠で休養が十分にとれていない」と感じている。特に働き盛りの30代、40代、50代はすべて26%以上に達した。実に4人に1人という割合だ。
起床後に朝日を見ることが、快眠への第一歩となる。窓から1m以内で15秒間太陽光を浴びよう。(c)PaylessImages-123RF
ベッドにいる時間が限られている以上、少しでも「質のいい睡眠」を取りたいと多くの人が思っていることだろう。そこで今回は、これまで1万人以上に行動療法による睡眠改善を指導してきた睡眠コンサルタントの友野なおさんに、“睡眠五感”に着目して睡眠の質を上げる方法を聞いた。
通常、五感といえば「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」「味覚」を指すが、睡眠五感では味覚を外して「温熱感覚」を加えている。「ぐっすり眠るためには五感が深く関わっています。これらの感覚からアプローチすることで、よく眠れる体と心を作ろうということです」と友野さんは説明する。
友野さんの指導で睡眠が改善されると、「仕事の生産性が上がって残業がなくなったり、集中力や注意力、コミュニケーション能力、判断力が向上したりといった事例がよくあります」という。
では、順番に見ていこう。
1. 視覚:窓から1m以内で朝日を15秒浴びる
太陽が出ているときに活動し、夜になると休むのが人間の基本的ライフスタイルだ。光と睡眠に深い関係があることは、もはや常識といってもいいだろう。
大切なのは昼と夜のメリハリをつけること。「昼間はできるだけ明るい光の中で過ごし、就寝1時間前には照明を暗い暖色系のものに変える。コンビニの店内はとても明るいので、夜はなるべく行かないほうがいいですね」と友野さんはアドバイスする。
朝になったら、窓を開けてすぐに朝日を浴びる。それによって眠気をもたらすホルモン物質であるメラトニンの分泌が抑えられて目が覚め、覚醒作用のあるホルモン物質であるセロトニンの分泌がうながされることで、規則正しく寝起きできるように体内時計が整う。2017年に発表された研究では、「窓から1m以内で15秒間太陽光を浴びる」ことで体内時計が整うことが確認されている(JCI Insight. 2017 Apr 6;2(7):e89494)。
2. 聴覚:寝室の静けさは図書館のレベルに
当然、眠るには静かなほうがいい。「45デシベル以上の音で覚醒反応が引き起こされるといいます」と友野さん。安眠するためには騒音が40デシベル以下の環境が望ましい(日本音響学会誌 37(9),430-6,1981)。一般に図書館の中が40デシベル程度とされているので、これを目安にするといい。
交通量の多い道路や繁華街に近いなど、立地のせいでどうしても外からの騒音が入ってくることもあるだろう。そういうときは厚手のカーテンを使うと、いくらか入ってくる音を減らす効果がある。朝日を入れるため、10cmくらい開けておこう。
また、心地いい音で騒音を覆ってしまうマスキングという方法もある。「クラシックやヒーリング音楽など、静かな音楽を就寝時にタイマーを使って1時間くらいかけておくといいでしょう」と友野さんは話す。
3. 嗅覚:お気に入りの香りでリラックス
ラベンダー、ヒノキなど、安眠をもたらすとされる香りは副交感神経を優位にし、リラックス効果があるとされる。(c)bee32-123RF
ラベンダー、イランイラン、ヒノキ、ベルガモット、サンダルウッドなど、安眠をもたらすとされる香りはいくつか知られている。これらの香りは副交感神経を優位にし、リラックス効果がある。最近、トルコで行われた試験でも、ラベンダーの香りが不安感を抑え、睡眠の質を向上させることが分かった(Nurs Crit Care. 2017 Mar;22(2):105-12)。
ただし、自分が好きな香りを選ぶこと。客観的に効果が確認されていても、自分が不快に感じる香りは交感神経を刺激するのでリラックスできない。
「最近はスティック状になっていて手首などに塗るロールオンタイプや、枕にスプレーするピローミストなどの商品も出ています。これらは手軽なので、忙しい男性にもお勧めですよ」(友野さん)
4. 触覚:気持ち良いと感じる寝具、寝間着を選ぶ
快眠を考えたとき、多くの人が見落としがちなのが寝具やパジャマの肌触りだ。掛け布団、敷き布団、毛布、枕カバー、パジャマの材質によって、睡眠の質は大きく変わってくるというからバカにできない。
シルクは保温性や吸保湿性に優れ、熱伝導率が低いので冬は暖かく、夏は汗をかいてもべたつかない。使い心地と耐久性から考えると、コットンも悪くない。夏ならば麻がさわやか。タオル地も安心感があっていい。
それぞれに長所があるので、絶対にこれがいいという素材はない。大切なのは使っている本人がリラックスできることなので、自分が気持ちいいと感じる素材を選ぼう。
5. 温熱感覚:布団の中の温度は33±1℃に
「快眠をもたらす寝床内気候、つまり布団の中の温度と湿度は一年を通じて変わりません」と友野さん。温度は33±1℃、湿度は50±5%だ。布団や空調を調節して、常にこのレベルを維持するように心掛ければいい。
そのためには夏は冷房、冬は暖房を使う必要がある。目安となる室温は19~26℃。今の季節なら、就寝から1~2時間は暖房をつけて眠るようにしよう。
暖房を使う場合、乾燥を防ぐために加湿器も併用する。暖かい空気は上に行くので、サーキュレーターで室内の空気を循環させるといいだろう。
視覚、聴覚、嗅覚、触覚、温熱感覚。それぞれに着目して眠りやすい環境を作ることで、自然と深い睡眠が得られる。睡眠の量(睡眠時間)が変わらなくても、質が良くなれば満足度は高くなるはずだ。
友野なお(ともの なお)さん
睡眠コンサルタント、SEA Trinity代表

順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科で睡眠科学を研究し、修士号を取得。エビデンスに基づく行動療法による睡眠改善を1万人以上に指導してきた。北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学特別研究生。日本睡眠学会正会員。著書に『やすみかたの教科書』(主婦の友社)、『昼間のパフォーマンスを最大にする 正しい眠り方』(WAVE出版)など。
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