睡眠には大脳が活動して夢を見ている状態の“レム睡眠”と、活動せずに休んでいる“ノンレム睡眠”があるが、内山主任教授によると「手続き記憶の定着はノンレム睡眠中に起こっている可能性が高い」という。
「脳の中に技能(手続き記憶)を定着させるため練習を繰り返すと、それに関連した太い神経ネットワークができますが、同時に細い雑多なネットワークもいくつもできてしまう。しかし、後者の細いネットワークは、定着した技能を発揮させるにはノイズのような邪魔な存在になり得る。ノンレム睡眠中には、こうしたノイズが刈り込まれ(消されて)、太いネットワークだけが残ることによって、手続き記憶がしっかり定着するのではないか、と考えられています」(内山主任教授)
夜間の激しい運動は寝付きを悪くするためお勧めできない。ただし、ゴルフのスイングや楽器演奏など、運動の負荷が低く、さらに熟練が必要な動作である場合は、夜間の練習が上達を早めるために効果的なようだ。

機械的な短期記憶の能力は睡眠で高くなる
滋賀医科大学精神医学講座の栗山健一准教授らの実験から、短期記憶の能力も睡眠によってアップすることが分かっている。
この検証に使われたのは「Nバック課題」というものだ。4つの電球のうち、1つだけを消しておく。次々とパターンが変わる中、前回は何番目が消えていたか、前々回はどうだったか、と何回前まで答えられるかを判定する短期記憶力のテストだ。テストは7~10時間のインターバルを取って3回行われたが、間に睡眠をはさむと成績が明らかに良くなった(J Neurosci. 2008 Oct 1;28(40):10145-50)。
長期記憶に比べて短期記憶は軽視されがちだが、ビジネスの場では意外とバカにできない能力だ。仕事Aをやろうと思っていたとき、上司から仕事BとCを頼まれ、その話を聞いているうちに最初のAを忘れてしまう。そんなよくありそうなミスを減らすことができるかもしれない。そもそも瞬間的な記憶力が向上するということは、それだけ頭の回転が良くなっている証拠ではないだろうか。
眠った後は「ひらめき」も出やすくなる。実際、寝起きのときにナイスな企画を思いついたことがある人も少なくないだろう。
ドイツのリューベック大学の研究チームは、「一見難解だが、隠れた法則性に気付くと答が簡単に分かる」というバラエティ番組のクイズのような問題を作った。ひらめきが来なければ、まともにいくら考えても分からない。夜に初めてやると法則性に気付く人は少なかったが、いったん眠って翌朝再び挑戦すると、多くの人が法則性に気付いたという(Nature. 2004 Jan 22;427(6972):352-5)。
この実験で注意すべきは、寝る前に一度さんざん考えたこと。何も考えずに眠っても、ひらめきはやって来ない。じっくり考えてから眠ることで、脳の中の小人たちが働いてくれるわけだ。
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