まだまだ男盛りの中高年に容赦なく襲いかかる体の悩み。医者に相談する勇気も出ずに、1人でもんもんと悩む人も多いことだろう。そんな人に言えない男のお悩みの数々を著名な医師に尋ね、その原因と対処法をコミカルで分かりやすく解き明かす。楽しく学んで、若かりし日の輝いていた自分を取り戻そう。
製薬企業に勤務する40歳。学生時代から近視で「眼鏡がよくお似合いですね」と言われるとちょっぴり嬉しい。しかし、最近「眼鏡とさよならしてみるのもいいかな」と考えるようになった。別にもてたいからじゃない。理由は趣味のスポーツにある。仕事にも家庭にも余裕が出てきた30代半ばから始めたのがランニングだ。最初は近くの公園を走るだけだったが、ランニング仲間に誘われて参加したハーフマラソン大会に参加したのをきっかけにのめりこんでいった。フルマラソンにも参加するようになると、眼鏡をわずらわしく感じるようになり、「裸眼で走れたら」と考えるようになった。ただ、レーシックなどで視力を矯正すると老眼が早く始まり、症状もよりつらくなるという話も聞いた。中高年となった自分にも向いた方法なのかよく知りたい。
(イラスト:川崎タカオ)
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近視によって低下した視力を取り戻すには、眼鏡やコンタクトレンズなどの道具を使用することが一般的だが、レーシック(LASIK)では、特殊なレーザーを用いて角膜の形を変え、屈折力を調整して視力を回復させる手術を行う。裸眼ではっきり見ることを目的とした手術なので、近視の人なら一度は考えてみたことがあると思うが、どんな人に向いているのだろうか。
ライフスタイルを見極めて判断を
日本では、2000年に使用するエキシマレーザー装置が医療機器の承認を受けたことから広まり始めた。2006年頃からは低価格で手術を行う医療機関が全国に登場したことから、手術者数が急拡大し2008年には年間40万件規模となった。しかし、一部の医療機関が料金の不当表示をめぐって公正取引委員会の警告を受けたほか、都内では患者70人が集団感染し細菌性角膜炎を発症するという事件も起きた。
これらの影響もあって、現在の年間手術数は3万件程度で推移していると考えられている。しかし、レーシックは適切なリスク管理が行われれば、その安全性が評価された手術でもある。2009年にアメリカの医学誌には、手術後に長期的な経過観察を行っても安全であるという臨床研究も報告された。
いわばブームが一段落した現状について、お茶の水・井上眼科クリニック 屈折矯正外来・レーシックセンター長の玉置正一さんは、「裸眼視力の矯正を必要としている人が、眼科医とよく相談しながら適切な手術を受ける時代がやってきた」と話す。
では裸眼視力の矯正を必要としている人とはどんな人か。スポーツ選手や消防士など仕事が関連する場合もあるが、お茶の水・井上眼科クリニックでは、サーフィン、マラソン、登山など趣味のスポーツを思う存分楽しみたいという中高年がレーシックを受けるケースが多いという。玉置さんは「裸眼視力を矯正する場合は、自分のライフスタイルをよく考えることが大切だ」とアドバイスする。
角膜の形を変えて屈折矯正する手術
私たちの眼の構造をカメラに例えた場合、レンズの機能は眼の表面から順に角膜、水晶体、硝子体などが受け持っている。そしてレンズ効果のもっとも高いのが、丸いドームのような角膜だ。角膜の丸み(カーブ)が強くなると、外から入ってくる光の像は、カメラのフィルムに相当する網膜よりも前に焦点を結ぶようになり(近視状態)、逆に角膜が平らになると網膜より奥で焦点が結ぶようになる(遠視状態)。
レーシックは、角膜のカーブをエキシマレーザーなどで変えることによって、屈折異常(近視、遠視、乱視)を矯正する手術方法の一つだ。レーザー光線で削る前に角膜の表面を薄く切り取り、角膜を守る「蓋」となるフラップを作る方法を特に「LASIK」と呼ぶが、蓋を作らず角膜にレーザーを当てる「PRK」「LASEK」(ラセック)という方法もある。こちらは、角膜が薄い人や格闘技をする人に適している。レーシックは経過が良ければ翌日からでも良く見えるようになる。PRKは、個人差はあるが、視力が回復するまで1週間ほどかかる。
レーシックの手術の流れ
(1)点眼麻酔を行う。(2)フェムトセカンドレーザーで均一な厚さのフラップをつくる。(3)エキシマレーザーを照射して角膜の形状を変え、屈折異常を矯正する。(4)フラップを元に戻し自然に接着させる。(画像提供:お茶の水・井上眼科クリニック)
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老眼が進んだときの生活をイメージ
現在、レーシックは近視、遠視、乱視などの矯正が可能だが、なかでも手術例が最も多いのが近視の矯正だ。遠くを見るときに眼鏡が必要ではなくなるため、眼鏡をかけるのがわずらわしいと感じる人、コンタクトレンズが合わない人などがレーシックを受けることも多いが、手術前に考えておく必要があることの一つは、40代以降に進む老眼のことだ。
老眼は屈折異常ではなく、加齢により眼の調節力が低下した状態だ。若いうちは遠くの山々にも、腕時計の文字盤にも眼のピントを合わせることができるが、だんだんその調節範囲が狭くなってくる。レーシックで近視を矯正して裸眼視力を手に入れても、老眼が始まりピント調節機能が衰えてくると、眼鏡(老眼鏡)などが必要になる。玉置さんは「シニア世代になったときの自分のライフスタイルをよく考えることが大切だ」と話す。
安心して受けられる医療機関を探そう
レーシックの手術を検討している人は、こうした問題によく相談に乗ってくれる、さらに、レーシックの問題点についてもよく説明してくれる眼科専門医を選ぶことが大切だ。日本眼科医会のホームページでは、レーシックのリスクについても簡単に解説している。また、眼科のある約50の病院が会員となっている「安心LASIKネットワーク」のサイトでは、安全にレーシックの手術を受けるための情報を提供している。定期的に説明会を開いている医療機関もある。
また、玉置さんは「中高年になってレーシックの手術を受ける場合は、将来、白内障が進んだときの問題点などについても、きちんと説明を受けてほしい」と話す。例えば、白内障の手術は濁った水晶体の代わりに眼内レンズを入れることによって視力を取り戻すものだが、レーシックの手術を行うと眼内レンズの度数の計算が少し難しくなる。手術以前の眼のデータと手術内容の記録もあったほうがいいという。「眼内レンズの技術は進歩している。自分でも気付かないうちに白内障が進んでいる場合は、眼内レンズによる屈折矯正も選択できるため、医師とよく相談することが大切」と玉置さんは話す。
レーシックの技術は進んでおり、現在では眼の適性検査などを行った後、15分ほどの手術で矯正は行われる。術後は、1週間ほど保護グラスをかけ、あとは定期的な検査を受診するだけ。レーシック手術を受ける際のハードルは低くなっている。しかし、白内障、緑内障など眼の病気は加齢とともに増加する。こうした眼の問題に総合的に取り組んでもらえる医療機関で相談してほしい。
玉置正一(たまおき しょういち)さん
お茶の水・井上眼科クリニック 屈折矯正外来・レーシックセンター長、眼科専門医

島根医科大学(現島根大学)卒業。2001年より大阪市立大学医学部付属病院。その後、東住吉森本病院、大阪市立総合医療センター、城東中央病院眼科 医長を経て、2011年より現職。抗加齢医学会専門医。日本旅行医学会認定医。
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