まだまだ男盛りの中高年に容赦なく襲いかかる体の悩み。医者に相談する勇気も出ずに、1人でもんもんと悩む人も多いことだろう。そんな人に言えない男のお悩みの数々を著名な医師に尋ね、その原因と対処法をコミカルで分かりやすく解き明かす。楽しく学んで、若かりし日の輝いていた自分を取り戻そう。
事務機器メーカーの営業部門に勤務する32歳。爽やかさが売りの営業マンとしてのオレの悩みは、ヒゲが濃いこと。ポッチャリ顔に濃いヒゲは、どうも暑苦しく見えるらしい。彼女は、夕方になって青々とした頬をみて「カビの生えた大福みたい~」と言い放った…。でも、客先に不快な思いをさせまいと、毎日、5分近くかかってヒゲをそるのは、やっぱり面倒くさい。しかも、深ぞりしているためカミソリ負けもしょっちゅうだ。そこでオレは考えた。「ヒゲをなくしてしまえばいいんじゃないの」ということを。最近、レーザー脱毛がはやっているというが、いったいどのような医療なの? 男性でも受けられるの?
(イラスト:川崎タカオ)
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紀元前4世紀のマケドニア王国の王、アレクサンドロス3世は、若く見られたいがために世界で初めてヒゲをそったという伝説がある。その話はどうも眉唾のようだが、人類が古代からヒゲをそっていたことは間違いない。さまざまな遺跡から、ヒゲをそるための貝殻などがたくさん出土しているのだ。
このように、いつのまにか世の中ではヒゲがないか、あっても上手にコントロールした状態を「身だしなみ」と考えるようになったと言えるだろう。ヒゲをコントロールする手法も時代ごと、地域ごとに登場してきた。例えば、戦国武将などが行っていた方法の一つは「抜く」こと。一度抜くとしばらく生えてこないが、問題は非常に痛いことだ。
現在では、ヒゲはカミソリか電気シェーバーでそるのが一般的だ。痛くはないが、すぐ生えてくるので毎日そらないといけないのが欠点だ。忙しい朝、「ヒゲをそる時間を他のことに使えたら」と考える人も少なくないだろう。
痛みは少なく脱毛効果の高い最新機器
毎朝の面倒臭いヒゲそりから開放され、いつでもスッキリしていたい。そんな男性から注目されている方法が脱毛だ。脱毛というと女性が美容目的で受ける施術がよく知られているが、実はいくつかの方法がある。
●除毛クリーム:アルカリ性の薬剤を含むクリームを肌に塗り、体毛を溶かす。
●脱毛ワックス:粘着物質を肌に貼り、体毛とともにはがす。
●光脱毛:肌にフラッシュ光を照射。熱が毛根のメラニン色素に吸収されてダメージを与える。主にエステで用いられ、照射エネルギーが弱く、「減毛」「除毛」に近い。
●「医療」レーザー脱毛:毛のメラニン色素に吸収される効率の高いレーザー光を照射。毛にダメージを与え、永久脱毛が可能。
●ニードル脱毛:毛穴に1本ずつ電極(専用針)を刺し、電流を流して毛根に確実にダメージを与える。
これらの方法には、それぞれ有効性と安全性の問題があるが、現在、男性のヒゲを脱毛する方法として優れた方法と言えるのが「医療」レーザー脱毛。出力の高いレーザー装置を用いて医師が施術する方法だ。レーザーが脱毛に使えるようになったのは1990年代のことだが、次々と新しい装置や手法が登場し、現在では二度とヒゲが生えない脱毛も目指せる。
そして、こうしたレーザーの高性能化が、男性を脱毛へと向かわせるきっかけだったと言える。KM新宿クリニック(東京都新宿区)で脱毛医療に取り組んできた内藤崇院長は「5年前では、男性患者の割合は1割に満たなかったが、最近では2~3割へと増えている。そして施術を受ける男性の多くがヒゲ脱毛を行う」と話す。
毛を作り出す幹細胞がターゲット
では、新しいタイプの「医療」レーザー脱毛とは、どのような手法なのだろうか。使用するレーザー光は、ダイオードレーザーなど、毛のメラニン色素に吸収される効率の高いもの。簡単に言えば、そのレーザー光をパルス状に照射することで毛穴の奥にある「毛を作り出す領域」にダメージを与える方法だ。
最新のレーザーが従来と異なる点は、照射のターゲットとするエリアにあるという。従来の方法は、毛根に集中的にレーザーを照射して、毛根の付け根にある毛母細胞にダメージを与えていた。それに対して、新しい方法は皮脂腺の下あたりにある「バルジ領域」(図)をターゲットにしている。「近年になって、バルジ領域で毛因子を作り出すことで、毛が生えることが分かってきた」(内藤さん)という。このバルジ領域に65度程度、従来に比較すれば低い温度のレーザーを照射することで効果的に、しかも少ない痛みで脱毛しようというものだ。
最新の医療レーザー脱毛では、皮脂腺の下あたりにある「バルジ領域」を照射のターゲットにする。パチっと焼けるような痛みが少なくなったうえ、効率よく治療できるので治療時間の短縮につながっている。
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内藤院長は「従来のようにレーザーを毛根に直接当てないので、パチっと焼けるような痛みも少なくったうえ、効率よく治療できるので治療時間の短縮につながった」と話す。
男性は、女性と比較して痛みに対する恐れが強い。新しいタイプの医療レーザー脱毛を受けると多くの人が、「これぐらいならがまんできる」と話しているという。また、10年前は数十万円かかっていた施術料も、治療時間の短縮によって5万円程度と安価になったという。
医療レーザー脱毛によるヒゲ脱毛の施術風景
(写真提供:KM新宿クリニック)
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施術回数を調節、自分の望む脱毛具合を維持
こうした施術を行うと10日ほどして、レーザーによって焼けた毛がポロポロと抜ける。新しい毛もまだそれほど生えてこないが、専門家は2カ月ほどしたら2回目の施術を薦める。
というのも、体に生えている毛は、「成長期」「退行期」「休止期」という3つの「生え変わりのサイクル」を繰り返しているからだ。毛の生え変わる周期は生えている場所によって異なり、毛の伸びる長さも決まっている。そして、「医療」レーザー脱毛の効果があるのは「成長期」にある毛。施術時に休止期にあった毛根には、効果がないため、毛のサイクルが回ってしばらくすると生えてくるのだ。
では、ヒゲ脱毛の場合は、何回程度繰り返せばいいのか。内藤院長は「人によっても異なりますが、8回程度行うと、再び生えてくる毛はほぼなくなる。しかし、患者さんによっては2回で満足される場合もある」と話す。
例えば、2回の施術で「日常のヒゲそりが非常に楽になった」という人も多い。また、この程度の施術だと将来、ヒゲを伸ばすことも可能になる。実際、顎のヒゲは残して頬のヒゲだけ脱毛するなど、ヒゲを生やしている人のための施術も可能だ。
女性のニーズから広まった「医療」レーザー脱毛。現在では、男性が自分のライフスタイルを実現する医療にもなった。受診するときは、自分のニーズを医師に丁寧に説明して施術を受けることが大切だ。
内藤崇(ないとう たかし)さん
KM新宿クリニック 院長

1999年、山梨医科大学医学部を卒業後、同大学付属病院 皮膚科形成外科に入局。2003年、東京大学形成外科 助手。2006年、獨協医科大学形成外科 助教。2008年、東京大学附属病院形成外科 臨床登録医。2012年、KM新宿クリニックの院長に就任。
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