禁煙補助薬の助けでストレスを軽減

 禁煙外来の主役は患者だ。医師や看護師は、患者にニコチン依存症がどのような病気なのかを知ってもらったうえで、さまざまな生活指導などを行って患者を支える。そこで重要な役割を果たしているのが禁煙補助薬である。α4β2ニコチン受容体に結合していたニコチンが禁煙によって急速に減少したとき、放出されるドーパミンの量が減り、イライラなどの離脱症状が起きる。離脱症状が強いと、禁煙に失敗してしまうため、禁煙補助薬が用いられる。広く使われている禁煙補助薬は2タイプあり、それぞれ異なった作用を持っている。

貼り薬
 ニコチンパッチという貼り薬で、ニコチンを皮膚から吸収させることによって、ドーパミン量が急激に下がり離脱症状が起こるのを抑制する。使用方法は、禁煙開始日から使用し、8週間の使用期間を目安に、貼り薬のサイズを大きいものから小さいものへと切り替えて使用する。

飲み薬
 「バレニクリン」(商品名:チャンピックス)という飲み薬で、服用すると成分がニコチン受容体に先に結合する。これにより、喫煙によってニコチンを取り入れても、ドーパミンが出ないようにする。つまり、喫煙したときのスッキリした快感がなく、「おいしい」と思えなくなる。ただ、わずかにドーパミンを放出させることで、離脱症状が起こらないようになっている。禁煙を開始する1週間前から飲み始め、12週間服用する。

3カ月の間に健康アップを実感

 禁煙外来の治療期間は12週(3カ月)で、その間に5回の診察がある。そこで禁煙が守られているか、副作用はないか、患者に困ったことはないかなどを確認する。例えば、肌の弱い人ではニコチンパッチによるかぶれが起こる場合もあるし、バレニクリンでは「吐き気」「お腹がはる」「悪夢」などの副作用がみられることがあるという。

 この12週間は、短いようで長い。医師と患者が二人三脚で走るハーフマラソンのようなものかもしれない。嶋田医師は「患者を励ましたり、適切なアドバイスをしたりすることも大切」だと話す。例えば、禁煙のコツは「家にタバコを置かない」「買いにいかない」「人からもらわない」の3カ条だという。「ストレスがあったので、つい1本吸ってしまった」という患者には「タバコを吸うことでストレスの根本は何も変わらない」と助言する。

 そして、全国の禁煙外来の統計では、7割の患者が禁煙に成功するという。禁煙のさまざまな医学的効果を実感できるのだろう(下表)。嶋田医師は患者たちが話す言葉のなかで最も印象に残っているのは、「タバコに縛られなくなった」「気持ちが楽になった」というものだという。タバコを吸うために、家族や友人と過ごす時間を犠牲にすることもあるし、火災の心配なども常に頭の中にある。禁煙によってそんなタバコによる拘束から開放されたことを表現したのだろう。

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 禁煙外来は、12週の間に5回通院しなければならないなど、ビジネスパーソンにとっては苦労もあるが、禁煙の苦痛が解消されるのと同時に禁煙成功率は高まっている。喫煙の不安を感じている人は、早めに医療機関に相談してほしい。

嶋田奈緒子(しまだ なおこ)さん
順天堂大学附属順天堂医院 呼吸器内科 医師
1995年、山梨医科大学(現山梨大学医学部)を卒業。山梨医科大学第2内科、同大学院病理学専攻を経て、2003年より順天堂大学呼吸器内科勤務。現在、肺癌化学療法外来、禁煙外来を担当。