60代、顔が分からなくなったら施設介護を検討

 現在の介護保険制度は、どちらかといえば在宅介護をする人に対して手厚く設計されている。しかし、認知症当事者の高齢化が進むなか、介護をする側の高齢化も進んでいる。日本では、まだ「親を施設に入れる」ということに抵抗を感じる人も多いが、在宅介護には限界がある。和田さんは「介護保険制度が始まって18年間で、優秀な介護士たちが育っている。自分たちの負担が大きくなり過ぎたらプロに任せるべき」だという。

 では、在宅介護から施設での介護に移行するのはいつなのか。和田さんは「認知症の場合、家族の顔が分からなくなったときが、一つの節目になる」とアドバイスする。介護者や家族のストレスも高まり、認知症当事者への虐待のきっかけとなることも少なくない。認知症の症状には波があるが、こうした兆候を感じ始めたなら、主治医と相談しながら、早め早めに介護施設を選ぶことが大切だ。

日本では「親を施設に入れる」ということに抵抗を感じる人も多いが、自分たちの負担が大きくなり過ぎたらプロに任せることも考えたい。(c)mykeyruna-123RF
日本では「親を施設に入れる」ということに抵抗を感じる人も多いが、自分たちの負担が大きくなり過ぎたらプロに任せることも考えたい。(c)mykeyruna-123RF

 例えば、代表的な施設として知られる特別養護老人ホーム(特養、介護老人福祉施設の一種)は社会福祉法人や地方自治体などにより運営される公的な介護施設だ。入所待機者が多く、なかなか入れないことでも知られているが、一度入所した人の多くはそこで余生を過ごすことになる。

 このほか、社会福祉法人や地方自治体、NPOなどによって運営される地域密着型の介護施設で、主に軽度の認知症高齢者を受け入れる「グループホーム(認知症対応型共同生活介護)」や民間の介護施設である「有料老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅」などもある。

良い介護施設を探すためのポイントは?

 良い介護施設を選ぶ基準な何だろうか。和田さんは「まずは見学や体験入居を行ってほしい」と話す。重要なのは、施設の文化を知ること。例えば、介護士が親ほども年が離れた入居者に対して「ちゃん」付けで呼ぶのは、認知症当事者を下に見ている現れだ。また、リハビリを兼ねて童謡などを歌わせる施設もあるが、入居者が本当に歌いたいのは元気な頃にカラオケで歌っていた歌かもしれない。

 これに対して、入居者一人ひとりを大人として尊重する文化があり、入居者の顔が穏やかで、落ち着いていることなどは良い介護施設の選択基準となる。それに加えて和田さんが重視するのは食事がおいしいこと。「介護施設の食事は、味付けが薄くておいしくないことも多い。健康のためということだろうが、この年齢の人に予防医学的な見地で献立を作ることにあまり大きな意味はない。むしろ、入居者がおいしいと感じる食事のほうが望ましい」とアドバイスする。

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