自由で機能する社会を作るのは「政治家」ではなく「経営者(マネジャー)」

 有害なリーダーの過激な言動に同調してしまう心理の根底にあるのは、人間の「不安」「不満」「絶望」です。当然のことながら「経済的不満」が最も深いところにあるはずです。つまり、仕事がない、給料が上がらない、生活がどんどん苦しくなる、という不満です。そこでドラッカーは、

「個々人の能力を生かし、マーケティングとイノベーションによって顧客が喜ぶ価値を創造し、高い倫理観によって社会に貢献し続ける組織が増えることで、経済的な問題を民衆が自ら解決できるようになる。」

という答えを出します。私たちが、毎日関わっている様々な仕事や活動における「マネジメント」が、幸福に人々が暮らせる健全な社会を築く上で大きな力になると彼は考えたのです。

「マネジメントとは、現代社会の信念の具現である。それは、資源を組織化することによって人類の生活を向上させることができるとの信念、経済の発展が福祉と正義を実現するための強力な原動力になりうるとの信念の具現である。」

(ドラッカー「現代の経営」)

民主主義をはぐくむ「マネジメント」とは

「あの人と一緒に仕事をしていると仕事が楽しいし、やりがいを感じる」

「あの人の下で働いていると、自分の能力が活かされ、成長できるのを実感する」

「あの人がいてくれると、チームが一致団結して目的に向かいやすい」

 このようなマネジャーと一緒に仕事ができる人は幸せです。メンバーは日々、仕事にやりがいを感じ、仲間と大切な目的を共有し、お客様が喜ぶ顔を見ることができ、その結果、経済的な価値も生み出せるのですから。その地にある企業や職場が民主主義的に、且つ生産的にマネジメントされていくことは、民主主義社会が健全に機能する土壌が耕されることを意味します。

 前回の本コラムでご紹介した書籍「ティール組織」にもあるとおり、今は権限を持つ一部の役職者がメンバーの業務を「管理」する時代ではありません。各々が「セルフ・マネジメント」(自主経営)を行い、心から共感できる組織の存在目的に向かい、自分らしい働き方、生き方を尊重される、そのようなマネジメントがますます求められていますし、それを実践している組織も増えています。

 これからの時代に、民主主義をはぐくむ「マネジメント」を成功させるために、どのような条件が満たされる必要があるのでしょうか。「ティール組織」にも描かれている組織の進化形態と、ドラッカーのマネジメント理論、さらに私自身の経験や研究の結果を融合して、9つの条件を挙げてみました。

「民主主義をはぐくむマネジメント 9つの条件」

  1. 人生をかけて取り組む意義のある、「目的」「使命」を感じる仕事がある
  2. 経営に関する「情報」が社員にオープンに共有されている
  3. 意思決定の「権限と責任」が現場に委譲されている
  4. 人の「強み」を生産的に活かすことが奨励されている
  5. ありのままの自分で、率直に発言できる「心理的な安全性」がある
  6. 組織として「高い倫理基準」が共有され、守られている
  7. 「イノベーションと起業家精神」を発揮しやすい職場環境がある
  8. 「管理とルール」は最小限で、且つシンプルである
  9. 上記の結果として、「利益率が高く顧客に支えられる事業」がある

 100人の組織であっても、2~3人の組織であっても、これらの条件を満たす「マネジメント」が求められています。2人、3人の小チームのマネジメントこそが大切だと言えるかもしれません。なぜなら、少数のチームのマネジメントがうまくいかず、チームがチームとして機能しなくなると、マネジメントする単位がどんどん大規模化され、徐々に個々人の「自由意思」「創造性」「強み」が活かされにくい職場環境になっていくからです。

 マネジメントは、誰もが身につけるべき教養です。個々のチームで、人がいきいきと働き、成果をあげられるマネジメントが実践されれば(実際に、そのような素晴らしいマネジャーはたくさんいます)、特定の役職者が多数の人員を一元的に「管理」する事態を避けられます。一人が大勢を一斉に管理するのは時代遅れであるだけでなく、権力が間違った使われ方をすると、それこそ職場における「全体主義」のリスクが上がります。だからこそ、いわば組織の末端の、小さいチームの「マネジメント」こそ大切なのです。

 「経営」「マネジメント」の健全な土壌が育っていない社会でいくら「革命」を起こしたり、革命的な大なたを振るったりしたとしても、幸福な社会は訪れません。健全な暮らしを具現化するための「マネジメント」がないからです。ドラッカーは「起業家社会」を予見した著書「Innovation and Entrepreneurship(イノベーションと起業家精神)」でこのように語っています。

"We now know that “revolution” is not achievement and the new dawn. It results from senile decay, from the bankruptcy of ideas and institutions, from failure of self-renewal. "

「『革命』は何かを達成した証しでも、新しい時代の夜明けでもない。革命はシステムの老朽と腐敗、アイディアと組織の双方の破綻、そして自己刷新の失敗から起きた結果にすぎない。」

(英文:ドラッカー「Innovation and Entrepreneurship」, 訳:藤田勝利著「英語で読み解く ドラッカー『イノベーションと起業家精神』」)

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