「今の市場、今のライバル、今の業務から、一回『目線』を上げよう。『すでに起きている未来』を映している変化を探してみよう。それは、思った以上に身近にあり、日々触れている事柄の中にあるかもしれない。」

What if ? ~そもそも「目的」がイノベーティブか~

 ドラッカーは常に「手段」より「目的」を問う人でした。その組織はなぜ存在するのか、事業の目的は何か、顧客が求める価値は何か、といったことです。イノベーションにおいても同様です。往々にして、私たちは「イノベーションを起こしたい」「イノベーティブな事業を作りたい」と、イノベーション自体を目的化してしまいます。しかし、イノベーションはあくまで手段であるべきです。その前に、そもそもイノベーティブ(革新的、創造的)な目的があるかどうか。そこが大切です。

「イノベーションには、他のあらゆる仕事と同じように、才能、創意、知識が必要である。しかしそれらのものは当然としても、本当に不可欠とされるものは、目的意識を伴う激しく集中的な労働である。」

(ドラッカー Harvard Business Review 1985年寄稿「イノベーションの機会」)

 前述のネスレ日本の高岡社長は十数年前に、スイス本社から自身の管轄事業の利益を「500%アップさせる」というミッションを与えられたそうです。通常であれば、15%、20%のアップが目標になるところ、500%アップの利益を出さなければいけないと。その時点で、高岡社長は「これまでの商売の延長線上の考えを一切捨てて、イノベーションを実践しないといけない」と気付いたと言います。これはもちろん500%アップという無謀なノルマが課されたという話ではありません。高岡社長とネスレ本社との間でも500%という数字が何を意味するのか、それを実現した先にどんな未来があるのか、という共通理解があったはずです。

 昨今経営の現場でも話題の「デザイン思考」では、「What if?」という言葉をよく使います。これは、「もし仮に~できるとすれば?」という意味で、最初の目的設定の段階で、従来の思考の制約を超えた、斬新な「目的の問いだて」をするということです。当然、「目的の問い」自体がイノベーティブなものでなければ、イノベーションを実現するアイディアも意欲も生まれてきません。

「ガソリンを使わない車を作れるとしたら?」
「手のひらの上の携帯電話がコンピューターに生まれ変わるとしたら?」
「貧困層を対象に融資をする金融機関を広められるとしたら?」
「衣類の品質を向上しながら、価格は1/3まで下げられるとしたら?」
「一杯400円、500円のコーヒーでも人が喜んで購入したくなるような空間を提供できるとしたら?」

 などなど、私たちが身近に知っている「イノベーション」の例も、いずれも「もし仮に~が実現できるとしたら」という事業の大きな夢、目的からスタートしています。

 先行きがますます不確実になる時代です。不安ももちろんあります。しかし、「仕事」「ビジネス」を通じて私たちは目指したい未来を自ら作っていくことができます。それが仕事をするということの大きな魅力の一つです。我々が今こそドラッカーから学べることは、「イノベーション」が、より良い未来を創る上でとても役立つツールになるということでしょう。

 最後に、ドラッカーが好んで使っていた言葉をご紹介して終わります。現代の私たちに向けて、ドラッカーが語ってくれているとも思える言葉です。

「The best way to predict the future is to create it. (未来を予測する最良の方法は、自らそれを創り出すことだ)」

 小さい試みからでも良いので、イノベーションを「実践」していきましょう。

(第3回 終わり)

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