マーケティングとイノベーションは、このように時間軸が異なるものの、どちらも「顧客の創造」に不可欠です。しかし、イノベーションには特に、なかなかお金と人材が投資されないのが現状です。私は、ドラッカーから教わったことを参考に、ビジネスリーダーにこのようにお伝えしています。

 「マーケティングは不可欠です。しかし、『一生懸命マーケティングだけをしていたら、気付いたらその市場自体がなくなっていた』ということが昨今よく起きています」

 デジタルカメラの登場でフィルム市場の大半が消失したこと、また皮肉にもそのデジタルカメラ市場もスマホのカメラ性能向上をきっかけに大幅に縮小したことなどを思い返しても、これは明らかです。時間と有望な人材の何割かを、「イノベーション」活動に投資し、自ら主体的に未来の事業を創り出すことがとても大切です。

「すでに起こった未来」にチャンスがある

 実際に、どうすればイノベーションの機会を発見できるでしょうか。私自身が、ベンチャー企業で事業開発の仕事をした時に、もっとも助けられたドラッカーの言葉をご紹介させてください。

 「イノベーションとは、起業家に特有の道具であり、変化を機会として利用するための手段である。それは誰でも学び、身につけ、実践できる。」

(ドラッカー 「イノベーションと起業家精神」)

 ドラッカー・スクールMBA留学時もこの概念を学びましたが、当時は正直言ってピンときませんでした。しかし卒業後、新事業の種を探すことに必死になり、試行錯誤していた時、この言葉に出会って霧がパッと晴れる気がしたのです。「そうか、新事業のネタを探すよりもまず、起きている『変化』に注目すれば良いのか」と。

 「これから何が当たるだろう?」ではなく、「何が世の中の重要な変化だろう?うちの会社の事業にその変化をどう活用できるだろう?」と考えることで、事業アイディアが浮かびました。そして、複数の新規事業を立ち上げ、軌道に乗せることができたのです。

 皆さんの周りにある新規事業をじっくり観察してみてください。飲食、小売り、ITサービス、教育、交通、観光・・いずれの成功している新規事業も、ほぼ例外なく「世の中の変化」をうまく生かして、顧客にとっての新しい価値を創り出しています。消費者の嗜好の変化、技術トレンドの変化、業界の常識と消費者ニーズの間で起きているズレ、人口動態、ライフスタイルの変化・・・など「変化」をうまく生かしたビジネスが成功しているはずです。

 この「変化」を発見していくプロセスをドラッカーは、「すでに起こった未来を発見すること」と言いました。未来を映し出していると思える、今後も続くと思われる変化のトレンドとその兆しを見つけることがイノベーションの機会を見つけるコツだといいます。

「重要なことは、すでに起こった未来を確認することである。すでに起こり元に戻ることのない変化、しかも重大な影響をもつことになる変化でありながら、未だ認識されていないものを知覚し、かつ分析することである」

(ドラッカー『すでに起こった未来』)

 イノベーションは、高度な技術開発から生まれるのではなく、「注目」の対象を変化させることで実現します。その注目すべき対象が、「すでに起こった未来」です。ドラッカーは、私たちにこのようなアドバイスを送っている気がします。