ドラッカーが最も伝えたかったこと

 「イノベーションとは、一部の天才のひらめきやギャンプルではない。それは体系であり、仕事である。だれでも学び、身につけることができる」

(ドラッカー 「明日を支配するもの」)

 ドラッカーの伝えたかった「イノベーション」の要点は、この言葉に凝縮されています。イノベーションは、一般に思われているようなひらめきやギャンブル的なものではなく、誰にでも実行できる体系的な仕事だということです。これは、「今日は営業活動をした」「経理業務をした」と言うのと同様に、「今日はイノベーションの仕事に時間を割いた」と言えるものだということです。

「マーケティング」と「イノベーション」

 「企業の目的は、顧客の創造である。したがって、企業は二つの基本的な機能を果たす。それがマーケティングとイノベーションである。」

(ドラッカー「現代の経営」)

 会社組織の目的は「顧客」すなわち「自社の強いファン」を創造することです。売り上げを上げる、利益を上げる、ということに目的を置くのではなく「顧客を創造する」ことに目的を置くことが鍵です。顧客を満足させる、顧客に愛される、顧客に喜んでもらう、ということに目的を合わせることで、職場も仕事も、そして人間もいきいきと生産的になります。組織内や自分自身の瑣末な問題よりも、「顧客」という成果をもたらしてくれる唯一の存在に意識を集中するのですから、結果が変わってくるのは当然です。

 その顧客を創造する2つの大切な機能が「マーケティング」と「イノベーション」です。両方ともに、「顧客の創造」に不可欠です。しかし、この2つの違いも同時に重要な意味を持ちます。

 まず、マーケティングとは何でしょうか、ここでもドラッカーは、シンプルに本質に迫ります。彼は、マーケティングを、
 「顧客の視点から、自分たちの組織を見ること」
 と定義しました。自社からではなく、顧客の視点から自分たちを見ることで、顧客が求める価値を提供できる存在に変わっていくことがマーケティングだとしました。

 一方、イノベーションとは何でしょうか。それは、
 「変化に注目し、顧客にとっての新しい価値と満足を『創る』こと」
 です。イノベーションの場合は、注目すべきは今の顧客が求めている価値ではなく、「変化の兆候」です。顧客にこれから欲しくなるものを直接聞いても、イノベーションに繋がる明快な答えは返ってきません。自動車産業を興したイノベーターであるフォードが、「なにが欲しいかと顧客にたずねていたら、『足が速い馬』と言われたはずだ」と語ったエピソードは有名です。

 また、飲食業界で様々なイノベーションを起こしているネスレ日本の高岡浩三社長も、「イノベーションとは、顧客がまだ気づいていない問題を解くこと」だと言います。顧客が今欲しいものではなく、欲しく「なる」ものを、変化の流れを拠り所にして探ること、今の勝機ではなく未来の勝機を見出していくこと、それがイノベーションです。