会社(カンパニー)の原点は、「ティール組織」

 そもそも、「Company (カンパニー)」という言葉には、「仲間」あるいは「仲間と一緒に何かをなす」という意味があります。世界には、200年以上の歴史のある企業が5,500社強あると言われますが、そのうちの半数以上の約3150社が日本の会社です(全体の約56%)。もちろん、日本という国の歴史の長さもありますが、それだけが長寿企業が多い理由ではないはずです。金儲け主義に走ることなく、社会における存在意義を大切に、社員個々人が挑戦心と責任感、そして倫理観を持って仕事をするという日本人特有の意識が背景にあると私は解釈しています。

 中でも、近代型カンパニーの先駆けとも言われる、坂本龍馬とその仲間が江戸末期に設立した「亀山社中」は、まさに典型的な「ティール組織」ではなかったでしょうか。共通の目的に共鳴した、自己責任意識の強いメンバーが、指示をされなくても自分自身の役割を認識し、セルフ・マネジメント (自主経営)しながら運営されていた会社が亀山社中でした。

 また、今日の大企業も、創業者の想いを辿れば「ティール組織」を連想させるものが殆どです。以下は「東京通信工業株式会社(現ソニー)」の設立趣意書です。

 “一、真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達(かったつ)にして愉快なる理想の工場の建設”
 “一、不当なる儲け主義を廃し、飽迄(あくまで)内容の充実、実質的な活動に重点を置き、徒(いたず)らに規模の大を負わず”
 “一、経営規模としては寧(むし)ろ小なるを望み大経営企業の大経営なるが為に、進み得ざる分野に技術の進路と経営活動を期する”

(1946年1月、ソニーの創業者 井深大が起草した「東京通信工業株式会社設立趣意書」より)

 一つ目の「自由闊達にして愉快なる」という言葉は有名ですね。ソニーという会社が何より大切にしていた「自由意思」「働くことの楽しさ」が伝わってきます。さらに、私が注目したのは二つ目、三つ目です。もともとソニーという会社が必ずしも「大きくなること」よりも「(大企業に立ち向かう)ベンチャー魂をいつまでも失わないこと」を目指していたことを意味しています。

 その後、株主至上主義、業績偏重主義の煽りで、このソニーの設立趣意が見失われた時代もあったでしょう。しかし、その原点に、「ティール組織」で重視されている、「セルフ・マネジメント(自主経営)」「組織の存在意義」、そして個々人の人間性と会社組織を切り離さない「ホールネス」があったことを私たちは改めて思い起こすべきです。

 本来、「ティール組織的」であるはずの会社(カンパニー)が、利益偏重的な経営姿勢、無理な事業拡大、価値観よりも効率性を重視した組織運営などにより、見失っているものが沢山あります。そういう意味で、「ティール組織」は、全く新しい組織モデルというよりも、私たちに「会社とは」「仕事とは」という原点を気づかせてくれるものだと私は解釈しています。

「ティール組織」は、時代の必然

 「ティール組織」の要素を一部でも取り入れて成果を上げている企業は沢山あります。改めてこの組織形態が注目される背景には、ドラッカーも再三提言していた重要な時代変化の波があります。それは、

 「情報化によってますます加速している知識社会」

という変化です。

 モノや装置といった目に見える資源が会社のビジネスモデルを既定していた時代から、「人間の持つ知恵、知識、価値観、目的、考え方」といった内的な資源がビジネスの成否を決める時代に移行しています。ドラッカーは、知識と知恵を使って場所や環境に拘らず成果をあげる人材を「知識労働者(ナレッジワーカー)」と呼び、

 「知識労働者は、『知識』という生産手段を自ら携行し、組織内外を自由に移動して成果をあげる」

と定義づけました。

 この知識労働者の時代への変化が意味することは何でしょうか。人間の外側にある資本ではなく、内側にある「知識」「知恵」「感性」といったものを活用して仕事ができるようになった今日、自由を手にいれた「ワーカー(働き手)」たちはますます「自由意思」で仕事をしたいと思うようになります。組織から強要されたり、お金や昇進のために自己犠牲を続けたりする働き方ではなく、その中に自ら「意味」「意義」を見出して動きたいと願います。

 さらに、「ティール組織」への変化は、一部の人が思われているような「小規模で新しいベンチャー企業」だけに起きていることではありません。「ティール組織」という書籍にも多数事例が紹介されていますが、大組織、公的機関、非営利組織(NPO)等でも、ティール組織的な形態が導入されて成果が上がっています。

 先日お会いした、医療と福祉サービスに関する先進的なサービスを展開している法人の経営者の方はこう言われていました。

 「創業後間も無く、事業計画なるものを作成して管理しようとしたけど、それまでよりも業績が下がってしまった。その後、『自分たちの使命』に照らして、『自分たちが心からやりたい仕事をしていこう』と話し合って計画値にとらわれず自由に事業を展開し始めたら、売上が3倍以上に増えた」

 経営において常識と言われる「中期計画」や「事業計画書による経営管理」も、変化の激しい時代には人の創造性や活力を奪うリスクになります。