
今年話題になっているビジネス書の一つに「ティール組織」(フレデリック・ラルー著、鈴木立哉訳、嘉村賢州解説、英治出版、2018年。原題「Reinventing Organizations」)があります。「上下関係も、売り上げ目標も、予算もない!?」という帯に興味を惹かれて読まれた方も多いはずです。日本での注目度の高さは2014年に本国で発売された原著以上とも言われます。その理由は、この本に描かれた組織の進化系と言われる形と、現在の多くの日本企業の姿にあまりに乖離があるからかもしれません。
今回と次回の2回に分け、この「ティール組織」の内容とドラッカーのマネジメント論を照らし合わせながら、これからの「働き方」「会社」「組織」がどういう姿になるのかを探っていきます。
まずは、組織コンサルタントと、かつて一緒に仕事をしたことのあるクライアント企業の社員との会話から見ていきましょう。
(コンサルタントA氏とクライアント社員B氏(ともに40歳代前半)の会話)
A氏:「『ティール組織』という本がありますが、読まれました?」
B氏:「はい、同僚に勧められて読んでみました。想像以上に分厚い本で、読むのに苦労しましたが(笑)」
A氏:「内容については、どう感じました?」
B氏:「個々人が主体的に意思をもって、セルフ・マネジメントをベースに自由に協働しながら仕事を進める考え方は、なるほどなあ、それが理想だよな、と思って読みました」
A氏:「ご自身の仕事やマネジメントに関する考え方に何か影響は?」
B氏:「正直、自分の会社の現状からはかけ離れすぎていて、イメージが湧きませんね……」
A氏:「あの本の内容に近い形でマネジメントされている組織は、まだ少ないでしょうね」
B氏:「本の表現で言えば『順応型(アンバー)』と『達成型(オレンジ)』の間にあるのがうちの会社かもしれません」
A氏:「本に書かれている組織の『形』を気にしすぎないことですよ。大切なのは、会社や働き方にどのような重要な変化が起きているか、常識とされていた考え方がなぜ限界に近づいているのか、その根本的な解決策は何か、をこの本から感じ取ることだと思います」
B氏:「確かに、従来常識とされてきたマネジメントでは、どうやっても人が生かしきれないというか、限界を感じますね。マネジャーをやっていてもひどく疲れますし。走れば走るほど、無理が増えています」
A氏:「数字上の目標を何とか達成できているとしても、人が疲弊する、気持ちが離れてしまう、顧客が自社製品やサービスに感動してくれなくなる、といった副作用が目立ち始めていますよね。このままでは、社会が機能しません」
B氏:「社会が機能しない、ですか」
A氏:「はい。多くの人がエネルギーを注ぐ『職場』『仕事』で、逆に人の活力が奪われてしまったり、その結果業績が低迷したりすると、社会は機能しませんよね。多くの先進国で問題になっていることですが」
B氏:「職場の人間関係で著しくやる気を削がれながら、目先の数字や競合他社との戦いに明け暮れていることが多いですね」
A氏:「『ティール組織』にも書かれているように『人が人生をかけて情熱を傾けるのに値しない』仕事が増えています」
B氏:「耳が痛いです。部下にも、同じ思いをさせてしまっているかもしれません」
A氏:「自分の所属する組織がティール組織かどうかより、ティール組織の時代に自分自身が進化する『準備』ができているか。それが大切だと思います。もちろん、私自身も日々それを自問しています」
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