「人が会社より長生きする時代」

 私が、約15年前にクレアモント大学院大学のドラッカー・スクールに留学した際に、ドラッカー本人が言っていた次の言葉が印象に残っています。

「自分のキャリアにおいて、60歳以降が最も生産的だった」

 確かに、彼の書き下ろした有名な書籍の多くが60歳を過ぎてから書かれています。しかし、ドラッカーが言っている「生産性」とは、単純に仕事の量のことではありません。自分が心からやりたい仕事に集中し、価値を生み出せた充実感のことを言っていたのでしょう。

 そもそもドラッカーは、60歳まで務めたニューヨーク大学を定年退職した後にカリフォルニアのクレアモントに移りました。家族や組織への責任から少し解放され、温暖な気候の土地で、自分のやりたい仕事に没頭できたのが60歳以降だったのかもしれません。そのドラッカー自身、96歳の誕生日直前に亡くなるまで、「生産的な」人生を生き続けました。亡くなった週にも手帳にはスケジュールがたくさん書き込まれていたと言います。そのドラッカーの「仕事観、人生観」の根っこには、何があったのでしょうか。

 「働く者、特に知識労働者の平均寿命と労働寿命が急速に伸びる一方において、雇用主たる組織の平均寿命が短くなった。今後、グローバル化と競争激化、急激なイノベーションと技術変化の波の中にあって、組織が繁栄を続けられる期間はさらに短くなっていく。これからは、ますます多くの人たち、特に知識労働者が、雇用主たる組織よりも長生きすることを覚悟しなければならない。」

(ドラッカー 「プロフェッショナルの条件」)

 いま、「組織(会社)」と「人」の関係が大きく変わる時代の真只中にあります。このコラムでも再三書いてきましたが、「知識労働者」という言葉は本当に重要なキーワードです。簡単にいえば、私たちがビジネスでやり取りするプロダクトは、目に見える「モノ」から目に見えにくい「知識、知恵」に変化しています。たとえ「モノ」を提供している会社であっても「サービス、ブランドイメージ、そのモノを使った様々な人生の楽しみ」といった「知識・知恵」の質が結果を大きく左右する時代です。

 その「知識、知恵」を生み出している人材が「知識労働者」です。ドラッカーの言葉を借りれば、「知識労働者」とは、

「知識という生産手段を自ら携行し、組織内外を自由に移動する」

人たちでもあります。多くの先進国で、この知識労働者の「寿命」はどんどん伸びる一方で、「会社」「事業」の寿命は短くなっています。だからこそ、私たちは「会社組織の役職定年や人事異動」に縛られるのではなく、「知識労働者としての自分自身」のキャリアを自ら決めていく必要があります。そうすることで、55歳、60歳を過ぎた後も、生産的に自分らしく、自分のペースで仕事をし続けることができます。