私がドラッカーから最初に突きつけられた問い―「あなたは何者ですか?」

 2003年、米クレアモント大学院大学に留学中の私は、教室でピーター・ドラッカー教授の初めての講義を、その第一声を、楽しみに待ち構えていました。「マネジメントの父」とも言われるこの人は我々に何を語るのだろう。「グローバル競争」についての話から始まるだろうか。それとも、「情報化社会の到来」のことだろうか。「これからの企業戦略」についての話だろうか。想像があれこれ頭を駆け巡り、やたらとワクワクしたのを憶えています。

 講義は突然始まりました。ドラッカー教授の第一声は、当事の私にとっては意外なものでした。

「あなたは、一体何者ですか?これを常に自問してください。」

 当時、このドラッカーの言葉の意味をすぐには理解できませんでした。30歳で経営大学院に留学していた私は、「自分の外」の世界の知識や情報を得ることに必死でした。「自分とは一体何者か」なんてことをじっくりと考えたことはありませんでした。「世の中が今後どう変わっていくのか?」「これから伸びてくるビジネスは?」といったことばかりに意識が向かっていました。そこにドラッカーは、「自分を知らない人間が、自分以外の人と生産的な関係を築いたり、他の人にポジティブな影響を与えたりすることなんてできないだろう」と強烈なジャブを打ち込んでくれたのです。

「リーダー」の最も基本的な条件

 ドラッカーは、複雑に見える物事の根っこ、重要な「本質」を誰にでも理解できるシンプルな言葉に落とし込むことに長けていました。彼は、リーダーの条件について、こう語っていました。

「リーダーの最も基本的な条件は、フォロワーがいることだ」

 肩書きや立場がリーダーを決めるのではありません。その人を信頼してついてくるフォロワーがいたら、その人はリーダーです。「フォロワーがいるかどうか」がリーダーシップの有無を判断できる唯一の基準だとドラッカーは言います。

 言い換えれば、リーダーというのは、なるかどうか逡巡するものでも、なれるかどうか心配するものでも、なりたいと思ってなるものでもありません。世に知られている多くのリーダーに共通しているのも、「リーダーになろうと思ってなりました」という人はほぼいないということです。自分自身と向き合い、行動を起こした人が、「結果としてフォロワーを生み出し、リーダーになった」のです。

 では、信頼してついて来てくれるフォロワーとは、どのようにして生まれるのでしょうか。ドラッカーはこうも言っています。

「信頼するということは、リーダーを好きになることではない。常に同意できることでもない。リーダーの言うことが真意であると確信を持てることである。それは、真摯さという誠に古くさいものに対する確信である。」

(ドラッカー 「未来企業」)

 考えてみれば、私たちは仕事の場でどれくらい「自分の真意」を語っているでしょうか。「上司が言うから」「会社が売れというから」「評価されたいから」「嫌われたくないから」「わがままを言うべきでないから」・・・など様々な理由で、自分の「真意」を語っていないのかもしれません。何が自分の真意なのかさえも分からない人も少なくないでしょう。

 そんな私たちに、ドラッカーは、

「あなたの言葉で、あなたの声で、あなたが目指すことを、胸をはって語りなさい」

と助言してくれます。たとえそれが会社の方針に沿った(あるいは沿わない)行動であっても、そこに「自分自身」の声を乗せることが、「真意を語る」ことになり、部下や、同僚や、顧客からの信頼につながります。それが、「リーダーシップ」を発揮する最も重要な第一歩だということです。