毎年同じ所見でも、病気のリスクが高まっている場合も

 左室肥大を指摘された場合はまず、心筋障害などがあると現れる「ST-T変化」、心臓の電気信号の広がり方が通常より左側に偏る「左軸偏位」、左心房が拡張したり負荷がかかったりすると現れる「左房負荷」の有無を確認する。「これらの所見を伴わない場合は『左室肥大』とはせず、『左室高電位』として『要経過観察』の判定にすることもあります」(小川氏)。

 だが、一般的な職場健診の場合、循環器専門医が心電図を確認するケースは少ない。そのため、左室高電位の区別はせず、疑いのあるものは「左室肥大」として要精密検査と判定されることが多いのが現状だという。精密検査を受ければ左室高電位なのか、左室肥大なのかが分かるので、要精密検査と判定された場合はその指示に従い、精密検査を受けておくと安心だ。

 相談者のように、精密検査を一度受けて問題がなかった場合でも、翌年も要精密検査の判定なら、やはりきちんと検査を受けた方がいいと、小川氏は注意を促す。

「毎年同じ所見であっても、翌年には狭心症などのリスクが高まっている場合もあります。何かしらの所見が指摘された場合は、経年変化を見ていくことが大切です。健診の結果報告書では、所見や判定が示されるだけで、心電図を渡されることは少ないと思います。ただ、要精密検査になった場合は、健診の実施機関に問い合わせて、過去の心電図のコピーを取り寄せて持参するといいでしょう」(小川氏)

 左室肥大は職場健診でよく指摘される所見とはいえ、正式にそう診断されて肥厚が進んでくると、労作時の息切れや、心筋虚血による狭心症の症状を合併しやすくなる。さらに「同じ『左室肥大』の診断であっても、先天的に左心室の一部の筋肉が不均一に厚い『肥大型心筋症』が含まれていることがあり、この病気だと重症の不整脈を併発し、放置すると突然死を招くリスクもある」(小川氏)という。

 同じ所見で精密検査を受けたことがあっても、再び要精密検査とされた場合は、「きっとまた問題はないだろう」とは思わないでほしい。指示通りに精密検査を受けて、原因や病気のリスクの程度をしっかり確認しておこう。

小川聡(おがわ さとし)さん
小川聡クリニック院長
慶應義塾大学名誉教授、国際医療福祉大学三田病院名誉院長

1970年慶應義塾大学医学部卒業。1992年同医学部呼吸循環器内科教授、1999年慶應義塾大学病院副院長を経て、2009年慶應義塾大学名誉教授、国際医療福祉大学三田病院病院長・心臓血管センター長に就任。2016年不整脈・心臓病を専門とする小川聡クリニックを開設、現在に至る。日本心電図学会理事長(2000~2003年)、日本心臓病学会理事長(2001~2004年)、日本循環器学会理事長(2008~2010年)を歴任。日本心臓病学会 心臓病上級臨床医(FJCC)、米国心臓病学会フェロー(FACC)、日本循環器学会 循環器専門医、日本不整脈学会・日本心電学会 不整脈専門医。著書に『保健指導のための心電図の読みかた・説明のしかた』(インフロント)、『不整脈 突然死を防ぐために』(別冊NHKきょうの健康)などがある。