会社勤めを続けている限り、避けては通れない職場の健康診断。自覚症状のない病気を見つけてくれるのは有難いが、仕事に追われるなかで再検査を受けるのはできれば避けたいのが人情。異常値を指摘されたとしても、どこまで生活を見直せばよいのか、今ひとつ釈然としない人も多いだろう。このコラムでは、各種検査への臨み方や結果の見方、検査後の対応など、誤解交じりで語られやすい職場健診についてわかりやすく解説する。

Q  職場健診の心電図検査の結果に「非特異的ST-T変化」とあり、総合判定では要経過観察だった。聞き慣れない所見で不安があるが、再検査を受けなくても大丈夫だろうか。

A  「非特異的ST-T変化」は職場健診の心電図検査でよくみられる所見。他の検査の所見や問診などから総合的に要経過観察とされた場合は、再検査は基本的には受けなくて大丈夫。

心臓病の診断に役立つ心電図検査では、自動診断システムの採用が進んでいる。(©dmitri gruzdev-123RF)

 心電図検査は、心臓病の早期発見と予防につながる基本的な検査だ。職場健診で実施されている安静時の心電図検査は、心電図を実際に記録する時間は15秒ほど。それほど短い時間で簡便に行える検査だが、心臓病の診断に役立つ様々な情報を得ることができる

自動診断で多発する「要精密検査」

 最近の職場健診では、学会の診断基準に基づく心電図の自動診断システムを採用し、結果報告書の所見欄に自動的に記入する機関が多くなっている。心臓病・不整脈を専門とする小川聡クリニック院長の小川聡氏は、「コンピュータ自動診断機能の精度はこの十数年で格段に向上しており、『異常なし』と判定されたものは、専門医がみても『異常なし』と診断することがほとんど」と話す。

 一方、『異常なし』と判定できない場合は、診断名がそのまま記載されてくる。冒頭の相談者に示された「非特異的ST-T変化」という診断は、職場健診の心電図で最も多く指摘されるものだという。

 「非特異的ST-T変化という診断は、心筋梗塞、狭心症(心筋虚血)、心肥大などで生じる典型的な波形とは異なり、かといって正常範囲ともいえない場合に示されます。この所見があっても、病的な異常ではない場合(特に40~50代の女性に多い)もあれば、心筋梗塞や狭心症などの前兆に近い可能性がある場合もあります。熟練の循環器専門医なら見分けられますが、自動診断ではその区別ができない点に課題があります」(小川氏)

 職場健診の心電図結果に「非特異的ST-T変化」などの所見があった場合、産業医などがそのほかの検査結果や問診なども加味して、「要経過観察」「要精密検査」などの判定をしている場合は、その指示に従えばいい。「心電図は専門医がみて初めて、その情報を最大限に引き出せる」(小川氏)もので、専門医以外がみる場合は見落としを恐れて要精密検査とされる場合も多い。冒頭の相談者のように要経過観察だったのなら、精密検査は必要ないと考えていいだろう。実際、要精密検査と判定された場合でも「本当の意味で精密検査が必要なのは1割程度」(小川氏)だそうだ。

 「ただ、企業の規模によっては産業医が常駐していないこともあり、結果報告書に『非特異的ST-T変化』といった診断名が書かれていても、十分な説明がなく、不安を覚える人も多くいます。心電図のこうした基本的な診断を理解しておき、結果に所見があった場合は最低限、心臓病のリスクがあるかどうかを、自分なりに確認できるといいでしょう」(小川氏)