会社勤めを続けている限り、避けては通れない職場の健康診断。自覚症状のない病気を見つけてくれるのは有難いが、仕事に追われるなかで再検査を受けるのはできれば避けたいのが人情。異常値を指摘されたとしても、どこまで生活を見直せばよいのか、今ひとつ釈然としない人も多いだろう。このコラムでは、各種検査への臨み方や結果の見方、検査後の対応など、誤解交じりで語られやすい職場健診についてわかりやすく解説する。
Q 50代になって何となく聞こえの悪さを感じているが、職場健診の聴力検査では「所見なし」だったので心配ない?
A 初期の加齢性難聴は健診では見つかりにくい。言葉の聞き取りにくさや生活習慣病があれば、耳鼻咽喉科で検査を

職場の健康診断で行われる聴力検査は「選別聴力検査」というもので、自覚しにくい難聴のスクリーニング(拾い上げ)を目的としている。「オージオメーター」という機器とヘッドホンを用いて、低い周波数の1kHzの音を30dB、高い周波数の4kHzの音を40dBの音量で聞き、聞こえたタイミングで正確に応答ボタンを押すことができれば、特に問題のない「所見なし」とされる。
だが、順天堂大学医学部耳鼻咽喉科学講座の池田勝久教授は、一般的な職場健診の聴力検査では、難聴を見つけにくい場合もあると指摘する。「選別聴力検査はもともと、常に騒音にさらされている職場での聴覚管理を第一の目的として、定期的な実施が義務付けられたものです。そのため、騒音性難聴の初期で聞こえにくくなるといわれる4kHzの音が設定されています。一方、加齢に伴って起こる加齢性難聴は、8kHz以上の高音域から聞こえにくくなるため、ごく初期では職場健診で見つけるのは難しい場合もあります」
ちなみに、1kHzの音は、日常会話に必要な聴力を検査するために使われる。
難聴は、音が伝わる経路(聴覚伝導路)のどの部位に異常が生じても起こる。聴覚伝導路のうち、外耳、鼓膜、中耳部に原因があるものを「伝音性難聴」、内耳、聴神経・脳に原因があるものを「感音性難聴」と呼び、脳の脳幹・大脳皮質に原因があるのものを「中枢性難聴」ともいう。また、伝音性難聴と感音性難聴を併せ持つ混合性難聴もある。
伝音性難聴の原因には耳垢がつまる耳垢栓塞(じこうせんそく)、鼓膜炎、急性・慢性中耳炎、滲出性(しんしゅつせい)中耳炎、耳硬化症などが、感音性難聴の原因には騒音性難聴、加齢性難聴のほか、突発性難聴、メニエール病、聴神経腫瘍などが挙げられる。
ただ、職場健診で見つかることが多いのは、医療機関を受診するような自覚症状がほとんどなく、ゆっくりと進行する慢性の感音性難聴だ。先述した騒音性難聴、加齢性難聴もこれに当たる。
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