奈良市立一条高等学校の校長として新たな取り組みを始めた藤原和博氏と、東京都立両国高等学校で「教えない授業」を実践している山本崇雄氏の対談の3回目(2回目は「『メロスは走っていなかった』と言える子の育て方」。
 ロボットやAIが人間の仕事を代替する社会が現実的になり、親世代が受けてきた教育や価値観がこれからは通用しなくなるかもしれない今、親の役割も教師の役割も変わろうとしている。
 山本氏は近著『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』の中で、AIが台頭する時代、教師と生徒、親と子供の“新しい関係”について述べている。今回の対談では、先生にできてコンピューターにできないのは「『学ぶのが大好き』というオーラを出すこと」という点で藤原氏と山本氏の意見が一致。子供に勉強させたければ、教師や親が楽しんで学び続けている姿を子供に見せることが一番だという。

授業も「時短」を進めたほうがいい

藤原和博(以下、藤原):山本先生は、例えば普通の先生が教科書と黒板で30分で伝える文法の知識があったとしても、もう板書もしないわけですよね。端的に言うと、30分かかることをもし10分で教えられるのなら、授業の時短が可能です。

藤原和博氏(写真:水野浩志、以下同)
藤原和博氏(写真:水野浩志、以下同)

 僕は授業の時短研究を若手の先生を中心にしてもらってるんですが、(教科書と黒板で30分かかっていた特定の知識を)10分ですり込める動画がネットのあちこちにあるはずなんです。

 例えば、太陽系というのは、太陽の周りを地球が回っていて、地球の周りを月が回っているのは分かるんだけど、そう教えられると太陽が静止しているように思えてしまう。でも実際には太陽系はすごいスピードでらせん運動している。そのらせん運動をどれくらいのスピードでしているかを実感できる映像というのがあるんです。

 著作権をクリアしなければいけないという問題を横に置いて考えれば、そういった映像を10分間生徒に見せると、すぐ分かる生徒と分からない生徒が瞬間的に分かれると思う。次の10分で分かった生徒が分からない生徒に教える。学び合いですね。それでも分からない子には、先生がフォローする。これもアクティブ・ラーニングになるんじゃないかと思うんです。

 知識的な素材は動画であらかじめ与えちゃって、そこから10分から15分学び合い。調べてもいいんだけどね。それで分かったやつが教える。教えるということは知識が定着したということ。最後に5分間スマホでテストして、知識が定着したかどうかを見る。

 授業時間は通常50分でしょう。でも、こういったアクティブ・ラーニングなら、授業は30分で終わるんじゃないかと思うんです。時間割を組んでみたら、7時半ぐらいに授業を始められれば、午後1時までに全部の授業が終わる(笑)。

山本崇雄(以下、山本):終わりますね。

藤原:そうすると、そこからさらにアクティブになれる。何をやってもいいんだもん。

山本:さらに知識を探求してもいいんですね。

藤原:部活も午後1時から思い切りやればいい。3時間から4時間はできるでしょ。芸術活動でもいい。部活を預かってない先生は3時半に帰れる。欧米の先生なんかみんなそうだから。それで自分の地域社会へ帰ってサッカーの指導をしたり。

 例えばフィンランドの先生なんて、だいたいみんなマスター(修士)だから、自分の地域社会で(例えば歴史の)講座を持っていたりする。それでお金を取ったりもしてる。ダブルインカムOKなんですよ。それから夏休みが2カ月はあるじゃない。その間、自分の住む地域社会の校外学習や合宿のアテンドをしてお金をもらったりもしている。

 いいと思うんです。そういうのがワークライフ・バランス。もしそうなったら女性の先生ももっと働きやすくなるでしょ。

 今、ワークライフ・バランスとかいって会社で残業をしないようにしようと言っているじゃない。だけど子供たちは小学校、中学校、高校で、目の前の先生がどういう状態かを知っている。

先生方はものすごく忙しくて、朝から夜遅くまで働いているということですよね……。

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