今回の連載では、 ①時代が変わっていることを認識し、いたずらに恐れないこと。 ②相手の良き理解者・相談相手になること。 について繰り返し書いてきました。最後に、有能な「ゼネラリスト」になるために大切なことをお話ししたいと思います。

スペシャリストは「専門家」。ではゼネラリストは?
最近は、管理職になるよりも、専門職を希望する若い人が多いと聞きます。マネジメントって気苦労も多いし、なにかと大変ですからね。それから、「管理職などのゼネラリストは、つよみがハッキリせず、つぶしがきかない。専門性をもったスペシャリストのほうが転職するのに有利だ」という話もあるそうです。大変な上に、自分の市場価値が上がらないなら、管理職になりたくないのもわかる気がします。
一般に、ゼネラリストというと「知識や能力を、浅く広くもつ人」と考えられています。これは間違いではありませんが、本質をついていません。筆者は、ゼネラリストは「幅広い意見・知識・能力などを、まとめ上げる(=統合する)ことができる人」だと考えています。スペシャリストは「専門家」。ゼネラリストは「統合家」と呼ぶべきです。「総合」ではなく「統合」です。
先ほどの、「ゼネラリストは転職活動で苦戦する」という話。「専門性」はテストで測ることができるし、資格で示すこともできます。しかし残念ながら、「統合力」って測りにくいし、示しにくいんですよね。だから、ゼネラリストは苦戦するのだと思います。
とはいえ、世の中の仕事は、それほど専門性が必要なものばかりではありません。むしろ、そこまで専門性はいらない。専門的な知識が必要なら、ちょっと勉強するか、専門家に聞けばいい。そうして得られた、幅広い意見・知識・能力などを、状況に合わせてまとめ上げる。現実的には、こうした「統合力」が求められる仕事のほうが多いのです。
統合について、もっと一般化して考えてみましょう。たとえば、リスクと利便性。例を挙げると、自動車は便利な乗り物ですが、利用すれば大気汚染や交通事故などのリスクが発生します。そこで、排ガス規制や交通法規を作る。それでも発生するリスクは容認することで、利便性を享受する。このようにリスクと利便性を統合することで、自動車の利用は成り立っています。
そう考えると、政治には高い統合力が求められます。少子化が進んで税収が伸びない中で、どのように収支のバランスをとるのか。それから、原発などのエネルギー問題や、近年とみに複雑さを増してきた周辺諸国との外交など。こうしたことは、統合的に考える必要があります。
しかし、このコラムの2回目「上司や先輩の言葉を素直に聞いてはいけない時代」でお話ししたように、日本はこれまで異常な急成長が長く続いたため、それほど統合的に考えることが必要とされませんでした。そのため、残念ながら、あまり高い統合力をもつ政治家が育っていません。
企業経営も同じで、新しいことをやろうとすれば当然リスクが存在します。可能性とリスク。これらを統合的に考えて実行に移すのが企業経営者の役割です。ところが、現在の日本人経営者の多くは「リスクがある」と聞いただけで尻込みします。統合力が欠如していることの表れです。
ゼネラリストとしての道を歩み始めた新任管理職の皆さんには、ぜひ「統合力を高めよう」という意識をもっていただきたいと思います。
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