では、「抽象←→具体」をスムーズに行き来できるようになるためには、どうすればよいのでしょうか。ここでは、二つのことをお勧めします。

①「近寄って見る。遠くから眺める」の両方を意識する
 ものの見え方は、対象物との距離によって変化します。近寄って見ると、具体的なことがよく見える。遠くから眺めると、抽象的なことが把握できる。これは、物理的な距離だけでなく、時間的な距離や、人間関係などの心理的な距離でも同じことが言えます。

 たとえば、自分の仕事を職場で見ていると、具体的なことばかり目に入ります。これを、少し引いた場所から眺めてみましょう。部署、会社、業界など、大きな枠組みの中で自分の仕事を眺めてみる。そうすると、「位置づけ」が把握できます。さらに、自分の仕事を少し長い目で見てみましょう。1カ月、1年間、3年間というスパンで眺めてみる。そうすると、「方向性」が把握できると思います。

 余談ですが、いわゆる「マリッジブルー」は結婚までの距離によって発生します。結婚を決めたばかりの頃は、結婚の意義や喜びなど抽象的なことに目が向きます。しかし、いざ結婚が近づいてくると、式の日取りや誰を招待するか、そしてどこに住んで部屋のレイアウトをどうするかなど、具体的なことに目が向かいます。そうすると、面倒なことばかりでイヤになってくるのですね(笑)。これがマリッジブルーの発生です。もし、今の仕事がイヤになったりしたら、少し遠くから眺めてみるとよいでしょう。

②まったく異なる世界の人と定期的に情報交換する
 まったく異なる世界の人と定期的に情報交換する。新任管理職の皆さんに、こうした習慣を作ることを強くお勧めします。

 まったく異なる世界の人が、皆さんの話を聞いて「面白い!」と感じるようにする。そのためには、自分の仕事の具体的なことだけでなく、位置づけや方向性、意義・意味、世界観、時代認識などの抽象的なことも話さなければいけません。まさに「抽象と具体を行ったり来たりしながら話す」ようにすると、異なる世界の人が興味をもって聞いてくれるようになります。

 逆に、まったく異なる世界の人の話を聞いて「面白い!」と感じるためにも、「抽象←→具体」が必要です。異なる世界の抽象的な話を聞いて、自分の仕事に具体的に活かす。これができるようになると、どんな世界の人と話をしても面白くなります。

 たしかに、まったく異なる世界の人と情報交換しても、すぐ仕事に役立つわけではありません。しかし、必ず役に立つ時がきます。すなわち、「緊急度は低いが、重要度が高い」わけですね。具体性ばかり求めていると、目先の仕事ばかりに追われて、本当に必要なことに手がつけられなくなります。新任管理職の皆さんは、ぜひ「抽象←→具体」を心がけるようにしてくださいね。

「普遍性」が見えてくる

 筆者は、研修を開発するにあたって「普遍性」を大切にしています。さまざまな業界、職種、年齢、性別、国籍、文化の人たちと情報交換して、「抽象←→具体」を行ったり来たりしていると、「いつの時代でも、誰にでもあてはまること」が見えてきます。これが「普遍性」です。

 筆者の研修は、もともと経営者や上級管理職を対象にしたものでした。しかし、普遍性を意識してから、大学生に学ばれたり、果ては海外に呼ばれたりなど、思いもよらない展開が始まっています。正直に言うと、50歳を過ぎてから海外でビジネスをするなんて、ぜんぜん想定していませんでした。

 普遍性が見えてくると、まったく異なる世界の人と話すのが楽しくなります。さらに、まったく異なる世界で自分の力を試すことも怖くなくなります。グローバル化が進展し、どんなに激しく変化する時代であっても、普遍性は必ず存在します。あわてないで、「抽象←→具体」を行き来していきましょう。

 この連載は、次回で最終回となります。これまでのご愛読に感謝申し上げます。私が今回の連載で一貫して伝えたかったのは、時代が変わっていることを認識した上で、いたずらに恐れないということです。変わるものもあれば、変わらないものもあります。まだまだ、書き足りないことがたくさんあるので、次回はそれらをコンパクトにまとめながら、あらためて新任管理職の皆さんにエールを送りたいと思います。