異なる世界の人と定期的に情報交換する。この習慣を作ることを強くお勧めします。異なる世界の人が、皆さんの話を聞いて「面白い!」と感じるようにする。そのためには、自分の仕事の具体的なことだけでなく抽象的なことも話さなければいけません。

 「人生百年時代」と言われ、定年が延長されたり、年金の受給年齢が引き上げられたりするなど、これからの時代は以前よりも長期間にわたって働かざるを得なくなります。さらに、グローバル化や技術革新などにより、仕事の内容が変化したり、まったく経験のない職務や地域に異動したりすることもあり得ます。一生の間に何度か、経験のないことに取り組まなくてはならない。今回は、こうした点について考察していきます。

経験を他の分野で活かすコツ

 はじめに、少々個人的なことをお話しします。筆者は現在53歳。8年ほど前まで今とは異なる事業を営んでいました。45歳の時に、いわゆる「人生の棚卸し」を行い、時代の変化を踏まえて、それまでとまったく異なる分野へ進出することにしたのです。

 筆者は以前からコミュニケーションに興味をもち、特に「聞くこと」について研究を重ねていました。さらに、その考え方や方法論をまとめて、自社の社員教育に活用していました。そして現在は、その内容を誰でも学べるようにパッケージ化して、日本と中国で販売しています。ですから、元々興味があって個人的に研究していたことを事業化したわけです。

 もちろん、新しいことを始めれば、わからないこともあります。しかも、45歳を過ぎて未知の分野に飛び込んだので、戸惑うことがたくさんありました。とはいえ、ブランディングや収益構造の作り方など、以前の経験が活かせるところもあります。むしろ、他の業界を経験してきたおかげで、競争が激しい教育・研修業界の中で、自社の特徴をハッキリ打ち出せるようになったと思います。

 これまでの経験を違ったフィールドで活かそうとする場合、自分が経験してきたことを抽象化することが必要です。そうして得られた概念は、他の分野でも応用がきくのです。

 たとえば、接客の仕事をしていて、あれこれと試行錯誤をしているうちに、「こうすると、お客様が商品を購入してくれやすい」という共通性を見出します。これは、経験から得られた「具体的なノウハウ」です。そして、そのノウハウを抽象化して、「こうすると、相手がこちらの提案を受け入れやすくなる」という概念にまとめます。こうして得られた概念は、マネジメントで部下を動かす際にも通用します。抽象化することで、接客の経験を他の分野に応用することができるわけです。

 先日、営業のトップから管理部門の統括に異動した方とお会いしました。「仕事の内容が変わって大変ですか?」と聞いたところ、「仕事は誰かのためにやるものです。営業はお客様のため。管理部門は社員の皆さんのため。結局同じですよ」と答えていました。これなども、営業で得た経験を抽象化して、管理部門で活かしているひとつの例ですね。

抽象と具体を行ったり来たりする

 最近は、なんでも具体的であるべきで、抽象的なことはよろしくないとする風潮があります。たとえば、「彼の話は抽象的で役に立たない」などと言う人がいます。たしかに、抽象的な概念はすぐに役立つものではありません。しかし、応用がききます。逆に、具体的なノウハウはすぐに役立ちますが、応用がききません。どちらも一長一短があるのです。

 抽象的な概念と具体的なノウハウ、どちらも大切です。この両者を活用するには、「ノウハウを抽象化して概念にする」「概念を具体化してノウハウにする」ということがスムーズにできる必要があります。「抽象と具体を行ったり来たりする」という感じですね。そうすることで、新しい分野に移っても、これまでの経験を活かすことができます。