対立する相手の「主張を聞くな・立場を聞け」

 ここで、大切なことをお話しします。クレームや交渉の時に、「相手の主張を聞かされる」のは得策ではありません。「値下げしろ!」「金を払え!」「弁償しろ・賠償しろ!」という無理な要求をふむふむと聞いていても、実際に飲めないのですから歩み寄ることができません。

 このような時は、「相手の主張」ではなく、「相手が置かれた状況・立場」を聞くように意識しましょう。たとえば、取引先が急に値引きの要求をしてきたとしましょう。そうした時に、「今日はずいぶん厳しいことをおっしゃいますね。何かあったんですか?」などと問いかけてみます。そうすると、「実は、今期は会社の業績が思わしくなく、主要な材料の仕入れ値を下げるように上司から言われてきた」などと要求の背景を話しやすくなります。

 こうなれば、しめたものです。そこを詳しく聞いた上で、妥協点や落としどころを提案すればいいのです。たとえば、対象となる商品を値引く代わりに、サービスで利益を確保させてもらうなどですね。交渉とは、「値引け」「いや値引かない」などと言い合うことではありません。相手と自分では立場が違うので、それを活かしてお互いにメリットが得られるように調整することなのです。

 筆者は若いころ、旅行会社に勤務していました。ある時、ものすごい剣幕でクレームを言ってきた男性がいました。初めのうちは烈火のごとく怒っていたのですが、しばらくすると「なんとかしてくれよ…」と言い出しました。そこで、「と、おっしゃいますと?」と水を向けると、「いや~、ウチのカミサンがさぁ」。

 実は、奥様が怒っていらして、ご主人を焚きつけていたのですね。そこからは、ご主人と私とで「奥様の怒りをおさめるには、どうしたらよいか」という相談になりました。さっきまで対立していた相手と共同戦線を張っているみたいで、我ながら可笑しかった記憶があります。

 最近は、合併・買収・統合など、企業のドラスティックな再編が多くみられるようになりました。これらは、言わば「組織の外科的手術」。そして、人体と同じくそこで働く人たちにもアレルギーのような拒否反応を起こします。このような時こそコミュニケーションが重要であり、「聞くこと」「対話すること」が有効です。次回は、「突然、まったく異質な人たちと仕事しなければならない時に、どうすればよいのか」について考察します。