次の図にあるように、対話は「サイクル」だと考えてください。このサイクルがグルグル回ると合意が形成されやすくなります。ですから、対話において重要なのは、「図の赤線の部分をつなぐこと」なのです。

 では、図の赤線の部分をつなぐには、どうすればよいのでしょうか。それが「聞くこと」なのです。この場合の「聞く」は、一般にイメージされる「傾聴」よりも能動的な行為だと考えてください。単にふむふむと聞くだけでなく、「相手の話を聞く⇒それを踏まえて⇒自分の話をする」という一連のプロセスをスムーズにこなす必要があります。実際にやってみるとわかりますが、けっこう頭を使いますし、かなり疲れます。

 この一連のプロセスをスムーズにこなすには、それなりの習熟が必要です。これを、私はよく「車の運転」にたとえます。初心者のころは、「車の運転って難しいな」と感じたと思います。しかし、しばらくして慣れてくると、車の運転をしながら音楽を聴いたり同乗者とおしゃべりしたりできるようになります。すなわち、習熟することによって「いろいろなことをスムーズに同時並行処理できるようになった」わけです。

 聞くことも同じで、習熟することによってスムーズにできるようになります。ところが、多くの人は「聞くことなんて簡単じゃないか。誰だってできるさ」と考えて、真剣に取り組んでいません。これまで約7000人に研修してきた私の感覚で言うと、ビジネスパーソンの7~8割の人は聞く力が不十分だと思われます。

 「相手の話を聞く⇒それを踏まえて⇒自分の話をする」というのが対話の第一歩です。人間には「返報性(お返しをする)」という行動特性があり、相手の話を聞くことによって相手も同じようにしてくれる確率が高くなります。こうしたプロセスによってサイクルが生まれ、そのサイクルをグルグル回すことによって合意を形成していく。これが対話の基本です。

 良いことに、対話のサイクルをグルグル回すと、どちらか一方がベラベラしゃべり続けることができなくなります。「ベラベラしゃべる・ダラダラ聞く」のは、生産性の高い行為ではありません。最小限の会話で、しっかりと合意を形成する。これを日常的に行えば、業務時間の短縮にもつながります。

話を聞いて、その内容をどう踏まえるかはこちら次第

 現実的には、対話のサイクルを回すのが難しい場合もあります。たとえば、議論や交渉の時に行うと、相手のペースに巻き込まれてしまいがちになります。そのため、「相手の話をまったく聞かず、自分の要求だけワーワーがなりたてる」人が多いのです。これは、若い人よりもベテランによく見受けられます。

 しかし、本当に議論や交渉がうまい人は、相手の話をじっくり聞いて、矛盾点や弱みを把握し、それを踏まえて反撃したり妥協点を見つけたりします。話を聞いて、その内容をどう踏まえるかはこちら次第なのです。

 これを自在に行うには、先述の「同時並行処理」をスムーズにこなせるようになる必要があります。たしかに、決して簡単ではありません。だから習熟が必要なのです。筆者が提唱している「聞く力を強化しよう」というのは、単なる傾聴ではなく、こうしたスキルのことを指しています。

 最近、不祥事に謝罪会見を開き、問題を大きくしてしまうケースが続いています。あれなども聞く力の欠如から起きています。「質問を受け付けずに、しゃべりたいことだけしゃべる」を繰り返せば、相手は反発するに決まっています。「質問は受ける。話も聞く。だけど、相手のペースに乗らず、必要なことだけ返す」という姿勢を穏やかに維持していると、やがて批判もおさまるはずです。