相手を動かすことばかり考えていないか

 これらの事例を、改めて見直してみましょう。当事者が「遺言を残そうとしない」「引退しようとしない」「病院に行こうとしない」わけですね。そこで、なんとかして動かそうと周囲の人たちが躍起になる。こういうことって、家庭内でよくありますよね。「息子が勉強しようとしない」「娘が学校に行こうとしない」「配偶者が家事を手伝おうとしない」等々…。こういう時、人は往々にして相手を動かすことばかり考えてしまうものです。

 特に、身近な人のことは「わかったつもり」になりがちです。だから余計に、理解することよりも、相手を動かすことばかり考えてしまう。ここに大きな問題があります。

 相手のことを理解することなく、自分が思うように動かすことばかり考えている。これは、極論すると、まるで相手の「支配者」であるかのような行為です。そうではなく、家族だからこそ、「よき理解者」になるべきではないでしょうか。そして実際に、きちんと理解してあげたほうが、相手はすんなりと動いてくれるものなのです。

 「わかったつもり」になるのは恐ろしいことです。その途端に、相手のことに興味がなくなり、新しい情報が頭の中に入ってこなくなります。一緒に暮らしている家族でも、実際には知らないところがたくさんあるはずです。日中は学校や職場などで別々に過ごしているわけですから、その間にいろいろな経験をしているはずです。むしろ、知らない部分のほうが多いのではないかと思います。

 次回、ご家族と過ごす時間があったら、最近経験したことをゆっくり聞いてみてください。楽しかったこと、悲しかったこと、悔しかったことなどを、分かち合うつもりで、相手の立場になって親身に話を聞いていきましょう。「肩を並べて同じ風景を見る」感じで話を聞いていくと、家族であっても「もっともっとわかってほしい」という気持ちになって、おしゃべりになるものです。そうして話を聞いているうちに、「苦しいことも、楽しいことも、分かち合うことができる人がいるというのは本当に幸せなことだな…」と実感できるタイミングがくると思います。

 話を聞いていると、「だったら、こうすれば良かったじゃないか!」とか「それで、結局のところ何が言いたいんだ?」とか言いたくなります。でも、それは我慢しましょう。身内だからこそ、リラックスして話をしているのですから、少しくらい内容がロジカルでなくてもいいではありませんか(笑)。

「自分を変える」のではなく、「接し方を変える」

 よく、「過去と相手は変えられない。未来と自分は変えられる。だから、相手を変えようとするのではなく、自分を変えましょう」と言われます。でも、これって難しいですよね。たしかに「相手を変える」のは非常に難しいですが、「自分を変える」のだって簡単ではありません。それに、「自分をどのように変えたら、相手との関係が良好になるのか?」が、よくわかりませんよね。

 そこで、「接し方を変える」ようにしましょう。「支配者」になろうとせず、「理解者」になるようにします。そのために必要なのは、「誠実に、相手のことをよく理解しようと努めること」です。この連載を通して、私が一貫してお伝えしたかったのは、こうした姿勢の大切さです。これは、ビジネスでもプライベートでも変わりありません。

 仕事でも、お客様のことを理解しようとせずに、動かすことばかり考えていませんか? 部下のことを理解しようとせずに、動かすことばかり考えていませんか? そうではなく、お客様のよき理解者になりましょう。部下のよき理解者になりましょう。さらに、上司や同僚のよき理解者になりましょう。そう努めることで、ビジネスでもこれまでと違った「未来」が見えてくるはずです。

 この連載は、これにて終了となります。最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。多くの方々から「いつも読んでいるよ」とお声がけいただき、とても励みになりました。この場をお借りして、心から感謝申し上げます。

 最後に、読者の皆さまが今後ビジネスでますます活躍され、プライベートでも良好な人間関係に恵まれますことを、心より祈念して、筆を置きたいと思います。どうもありがとうございました。