「語学力は必要ない」わけではない

 なお、誤解の無いように申し上げますが、私は決して「語学力は必要ない」と言っているわけではありません。「語学力だけではない」そして「語学力以外の部分が大きい」ということが言いたいのです。

 私のようなおじさんは、「語学を習得してから海外に進出しよう」などと言っていたらタイミングを逸します。ご縁があれば、取りあえず行ってみて、今までの経験で得たものを駆使して何とかすればよいのです。ベテランの方は、「もう若くないから…」などと考えず、どんどん海外に出ましょう。そして、大いにビジネスを展開しましょう。

 もちろん、若い人もどんどん海外に出ましょう。海外から日本を見ると、気付くことがたくさんあります。50歳を過ぎた私でも、日本と中国を往復することで、毎回たくさんの気付きを得ています。若い人であれば、なおさら多くの気付きが得られることでしょう。

自国の文化を理解する必要もある

 海外に出ると、相手の文化を理解することも大切ですが、自国の文化を理解することの必要性も実感します。いわゆる「アイデンティティ」ですね。特に私は、「日本発のコミュニケーションの概念」を海外に輸出しているわけですから、「なぜ日本人が『聞くこと』を大切にしているのか」を説明できるようにしなくてはなりません。

 そこで、古事記を読んだり日本文化の評論を読んだりしていますが、そもそも相手側に基礎知識がないと「八百万の神が…」「一神教ではなく、神々が対話して…」などと言っても、なかなかわかってもらえません。それに、なんだか話をこじつけているような感じがして、自分でもスッキリとしていません。これは、今後の課題ですね。

 ちなみに、日本には傾聴の理想を高い次元で体現している方がいらっしゃいます。それは「天皇陛下」です。被災地などの現場に足を運び、そこにいる人たちの声に静かに耳を傾ける。そうすることで、数多くの人々に勇気を与え続けています。日常生活の中でも傾聴するのは大変なのですから、これは並大抵のことではありません。「聞くこと」の専門家として、海外に出向くようになって、改めて陛下のご活動を心から誇りに思うようになりました。

 今回も、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。この連載も、次号でいよいよ最終回を迎えます。これまで、ビジネスにおける場面ばかり取り上げてきましたが、対話が大切なのはプライベートも同じです。むしろ、配偶者や子供など、身近な人の話を聞くほうが意外と難しいものです。夫婦の会話がない、親子の会話がないという話もよく聞きます。身近な人との対話がうまくいくかどうかは、人生の幸福度にも大きく影響します。そこで次回は、身近な人の話を聞く時のポイントについて考察したいと思います。