「聞いてもらいたい」気持ちは日中に共通

 そこで、「聞く側の立場」ではなく「聞いてもらう側の立場」はどうか尋ねてみました。「話を聞いてもらうのは嬉しいですか?」と問いかけると、「もちろんだ」という答えが返ってきました。そして、「モノやサービスを買う時に、自分のことをよくわかってくれる人と、そうでない人と、どちらから買いたいですか?」と問いかけると、「もちろん、自分のことをよくわかってくれる人から買いたい」と言います。ということは、「聞いてもらいたい」「わかってもらいたい」という気持ちがある点は日本人と同じなのです。

 物事を観察する時のポイントに「違うところは見えやすい。同じところは見えにくい」があります。よく観察すれば、日本人と中国人との「違うところ」はすぐにわかります。しかし、「同じところ」は当たり前すぎるようなことが多く、しっかりと彼我を観察しないと見えてこないのです。

 話を戻しましょう。「聞いてもらいたい」「わかってもらいたい」という点は同じであることがわかりました。そこで、たとえばセールスパーソンに「聞くこと」を教育する際には、「お客様のことを最小の努力で理解できるようになれば、今よりも効率よく売り上げを伸ばすことができる。そのために必要な『聞くスキル』を学びたくないか?」と問いかけるようにしました。すると、「それはいい。ぜひ学びたい!」とやる気を見せてくれるようになりました。

日本人は建前から、中国人はご利益から

 日本人に説明する際は、「これをやれば売り上げが伸びますよ」など露骨にいうと、嫌悪されたり怪しまれたりします。だから、入口の説明は「聞くことって大切ですよね」という感じで、ふんわりした大義名分のようなものから始めます。その後に、「売り上げが伸びる」「リピート率が上がる」などの具体的なメリットが得られることを、順を追って説明していきます。

 逆に、中国人は具体的に得られるメリットが何なのかわからないとやる気になりません。だから、初めから露骨に「あなたのメリットになりますよ」と言ったほうがよいわけです。

 でも、そんな中国人に「聞くことは、あなた自身のためになるだけでなく、みんなのためにもなるんですよ」と言うと「それは素晴らしい!」という反応が返ってきます。ということは、中国人も「世のため人のため」は嫌いではないのです。

 実は、日本人と中国人ではプロセスが逆なのです。日本人は、「あなたのメリットになる」というのを露骨に出すと嫌がり、「世のため人のためになります。さらに、あなたのためにもなります」という言い方をすると喜びます。

 中国人は逆で、「あなたのためになります。さらに、世のため人のためにもなります」という言い方をすると喜びます。プロセスが逆なだけで、内容は同じなのです。これがわかってから、ビジネスがグッとやり易くなりました。中国でも、「違うところは見えやすい。同じところは見えにくい」ことを改めて実感しました。

 ただ、「中国人のほうがわかりやすいな」と思う面もあります。日本人は、自分のメリットを期待しながらも、ハッキリと口にしないで、「皆さんがよろしければ」などと発言して「いい人」を演じます。そのくせ、自分がメリットを得られないと不機嫌になって、後でグチャグチャと文句を言います。こういうのを、「下心」と言います。下心があるのに、建前を口にして、いい人を演じる。日本人のほうが、やっかいな気がしますね(笑)。

「相手を理解するための聞き方」は変わらない

 このように、中国人と日本人の違いを把握し、具体的にビジネスを展開していく力は、語学力とはまったく関係がありません。むしろ、ビジネスやコミュニケーションに対する姿勢や経験がものをいいます。特にコミュニケーションにおいては、「誠実に、相手のことをよく理解しようと努めること」が大切です。実は、ビジネスやコミュニケーションの基本は、どこに行ってもまったく変わらないのです。

 私は「サポーティブリスニング」という概念を提唱しています。その要諦は「誠実に、相手のことをよく理解しようと努めること」です。しかし、こうした抽象的なことを言うだけでは、誰も学ぼうとしてくれません。そこで、聞くことに関する概念的な説明から、具体的なノウハウ、細かいテクニックまで体系的に整理して、研修として提供しているわけです。

 中国人と日本人は違います。しかし、「だからビジネスがうまくいかない」というのはおかしいのです。中国人のことを理解すれば、やりようは必ずあります。そこで必要なのは、これまでにお話ししてきたことと同じです。「基本的な配慮をする」「興味・関心・問題意識をもつ」「適切な質問をする」「積極的に傾聴する」「相手の立場になって親身に話を聞く」「考えを深めるための題材を提供する」。こうした基本(原理原則)は、文化の異なる外国人を理解する際も変わりありません。