話を聞かないでいると、相手はいきり立って大声を出したりして、無理にでも聞かせようとします。感情的な対立が起こり、交渉が先に進みません。聞いてはいるんだけど、決して話しやすくはない。こうしていると、相手も人間ですから主張を収束させたくなります。

 相手の主張が収束してきたら、「なぜ、こういう主張をするのか」という理由を問いかけてみましょう。そのような主張をするからには、意図や背景が存在するはずです。そこで首尾よく意図や背景を話し始めたら、今度は一転して話しやすい雰囲気を作ります。そうすると、相手はついついホッとして話し続けます。そうしているうちに、相手が置かれている状況や立場が見えてくるはずです。

 クレーム対応や交渉は、やはり格闘のような側面があります。「あなたの『聞く技術』に空いている大きな穴」の回で、柔道における「くずし」と「かけ」の話をしました。「主張する=技をかける」ことばかり考えるのは得策ではありません。相手の置かれている立場をよく理解することは、相手の体を崩すことと同じです。ぜひ、「くずして、かける」を意識するようにしてください。

相手は誰の目を気にしているのか?

 相手が置かれている状況・立場を理解するには、「相手は誰の目を気にしているのか?」を把握することが大切です。一般に、取引先の担当者は、上司の目を気にしています。経営者は、株主の目を気にしています。こうした視点をもつことで、相手が置かれている状況・立場がグンと理解しやすくなります。

 以前、ある会社に対して男性が強いクレームを言ってきたことがありました。しかし、言い方は厳しいものの、その男性の表情を見ると、それほど怒ってはいない様子です。よくよく話を聞いてみると、どうやら、その男性の奥様がとても腹を立てていて、彼を焚き付けているのだということがわかりました。すなわち、この男性は「奥様の目を気にしながら、こちらに向かってクレームを言っていた」のです。

 これが把握できれば、「それでは、奥様に納得してもらうにはどうすればよいでしょうか」と問いかけをすることができます。「奥様を納得させるために、共同戦線を張りましょう」という感じですね。クレームを言ってきた人が、いつの間にか協力者になるわけです(笑)。

 ただ、相手側が自らこのカードを使う場合もあるので注意が必要です。「ウチの上司は融通が利かない人だから…」などと言って、自分の背後にいる人を露骨に悪者にすることで、有利な条件を引き出そうとする交渉のテクニックもあるからです。ちょっと泣きつくような感じですね。相手がこう言ってきた場合、「そこをなんとかするのがあなたの仕事でしょう」などと言って、いったん突き放してみることも必要です。

 また、こちらが提示した条件を「それはできません」と言って断られた場合、すぐに引き下がってはいけません。「『扱いが難しい部下』をどう動かすか」の回で、ネガティブな部下の話の聞き方についてお話ししました。この方法は交渉の時も応用できます。相手が否定的な反応をした時には、「聞いただけでは、難しいとお感じになりますよね」と言って、そう感じていることは受け止めます。

 とはいえ、条件を却下されたとは受け取らず、あきらめないできちんと検討するように依頼します。そうしていると、「じゃあ、無理だと思うけど、一応上司に掛け合ってみるよ」という返事が返ってくる可能性があります。根くらべですね。

敵の敵を味方につけよ

 地政学に、「敵の敵を味方につけよ」という考え方があります。これは、ビジネスでも応用できます。厳しい交渉をする時は、交渉相手の敵は誰かを考えましょう。多くの場合は、ライバル企業ですね。私の経験からすると、「御社の一番のライバルって、どこですかねえ?」と聞くと、意外なほどあっさり教えてくれます。日本人って、やっぱり人がいいんですね(笑)。さらに、そのライバル企業をどう見ているのかも聞いていきます。「ライバル企業に後れを取りたくない」などと強く考えているようだったら、交渉を優位に進めやすくなります。

 もし、ライバル企業と取引しても問題ないのであれば、ライバル企業にアプローチしてみるとよいでしょう。そうして、「ライバル企業からも引き合いがきている」と伝えれば、よい条件を引き出せる可能性があります。