今回も、「部下との対話」について考えていきます。文句や要求ばかり言う、悲観的な話ばかりするなど、部下もいろいろです(苦笑)。そこで今回は、そうした「扱いが難しい部下」の話をどう聞いていくかについて、考察してみたいと思います。
文句や要求ばかり言う部下の話を聞くには
先日、「私は部下の話をなるべく聞かないようにしている」という人がいました。理由を問うと、自分の努力が足りないことを棚に上げて、文句や要求ばかり言う部下が多いのだそうです。「新規開拓が難しいから、もっと顧客リストがほしい」「忙しいから、もっと人手がほしい」など。本人によれば、「そうした話をうっかり聞いてしまったら、部下は要求を飲んでくれたと勘違いしかねない」というわけです。
このような悩みをもつマネージャーは、実際にたくさんいると思います。とはいえ、こうして部下の話を聞くのを初めから拒絶してしまうのは、やはり好ましいことではありません。
少し難しいですが、このような時には「受け止めるのと、納得するのを、ハッキリ分けて聞く」ことを実践してください。部下の話を受け止めはするが、内容に納得がいかなければハッキリとNOを言います。初めから部下の話を聞かないのは、「NOを言うのが嫌だから」という側面があるように思います。これは、厳しい言い方をすると、部下を思っての行動ではなく、自分に甘いのです。
「受け止めるのと、納得するのを、ハッキリ分けて聞く」には、一つコツがあります。それは、「状況確認をしっかりする」ということです。「営業で顧客の無理な要求に振り回されないために」の回で、「顧客の要望やニーズだけを聞こうとしてはいけない。なぜなら『単なる思いつき』や『身勝手な要求』であることが多いから」というお話しをしました。これは部下についても同じです。
たとえば、先ほどのような部下の要求を鵜呑みにすると、「顧客リストを買い与えたのに、ちっとも当たろうとしない」「人を入れたのに、まったく残業が減らない」などの事態に陥りかねません。
こうした事態を避けるために、文句や要求をだけを聞くのではなく、状況をきちんと説明させることを習慣にしましょう。新規開拓がなぜ難しいのか。仕事がなぜ忙しいのか。納得するまで聞いていきます。そうすると、「そもそも、仕事の優先順位がついていない」というお粗末な状況が見てとれるケースがよくあります。そのような状況を放置したままで、部下の要求を飲んでも、望む効果は得られませんからね。
悲観的な部下の話を聞くにも有効
「受け止めるのと、納得するのを、ハッキリ分けて聞く」ことの、もう一つの使用例を挙げます。それは、ネガティブな話が出てきた時の対応です。悲観的な発言をする部下って、結構多いですよね。たとえば(ちょっと極端ですが)、部下が「僕はもうダメです。絶望です」と発言したとします。
こうした時に、「何を弱気なことを言っているんだ! 大丈夫だよ!」といきなり発言を否定してしまうと、相手はかえってムキになってしまいます。とはいえ、「そうだなあ。絶望だなあ」と受け止めてしまったら、相手はガックリきてしまうでしょう(笑)。
そうではなく、「相手が、もうダメだ、絶望だと『感じている』」ことを受け止めます。答え方としては、「う~ん、そうなんだ。自分では、もうダメだと思ってるんだ」という感じですね。
そうしてから、「こういう面はどうなの? こういう可能性はないの?」と視野を拡げる質問をゆっくりと投げかけます。そうすると、まだ試していない手段が見えてきたりします。その上で、「まだ試していない手段があるということは、もうダメだ、絶望だというわけではないよね」という結論にもっていきます。
この手法は、カウンセリングなどでも使われています。たとえば、災害などに遭い辛い環境に置かれている人と話をすると、「先が見えない、もう絶望だ」という言葉が出てくることがあります。その際に、「たしかに、これだけ辛い状況に置かれると、絶望だと感じるであろう」ことは受け止めます。しかし、決して絶望ではない。ここを納得してはいけないのです。
ここまで、概念的な話が続きました。最後に、すぐに使える具体的なノウハウを二つばかりご紹介しましょう。
具体的な話を聞き出す「魔法の質問」
部下から、状況、原因、理由などを聞いていく際に、とても便利な質問があります。それは「きっかけは?」という聞き方です。この質問を使うと、具体的な話が出てきやすくなります。
たとえば、「文句や要求ばかり言う部下」が、「新規開拓が難しいから、もっと顧客リストがほしい」と要求したとしましょう。このような場合に、「顧客リストが必要だと考えたきっかけは?」という聞き方をします。そうすると、具体的な話が出てくるはずです。もし、「きっかけは?」と聞かれて具体的な話が出てこなかったら、「単なる思いつき」で要求している可能性が高いです。
それから、「悲観的な部下」が「もうダメです。絶望です」と発言した場合に、「どうした?」と聞くだけでは具体的な話が出てこないものです。こういう時も「何かきっかけがあったのかな?」と聞いてみます。そうすると、部下は具体的な話をしやすくなります。
「きっかけは?」は、トラブルの時にも使えます。たとえば、クレームが発生した際に、「どうして、お客様を怒らせたんだ?」と聞いても、「いや、僕は何も悪いことはしていませんよ」などの言い訳が返ってきたりします。部下が防衛本能を働かせてしまって、素直に答えようとしないわけですね。こういう時は、「お客様が怒り始めたきっかけは何なの?」と聞いてみるとよいでしょう。
それから、部下を採用する面接の時に「当社への応募動機は?」などと質問しますね。そうすると、「御社は、業界の雄として…」なんて、取ってつけたような応募動機を聞かされることがあります。もっと、本音の理由が聞きたい。そんな時にも「当社に応募しようと思ったきっかけは、どのようなものですか?」という使い方をします。
この「きっかけは?」という質問は、本当に便利で使い勝手がいいので、ぜひ様々な場面で活用してみてくださいね。
ちょっと引っかかった時には
部下の話を聞いている時に、「あれっ?」と、ちょっと引っかかる感じがする時がありませんか? あるいは、部下が何か言いたそうにして口ごもっている場面に出くわすこともあるかと思います。そういう時に、すかさずツッコミを入れたり、言いたいことをうまく汲んであげたりできると、大きなトラブルや突然の退職を未然に防ぐことができます。
このような時には、「というと?」「とすると?」「そうすると?」「それって?」「ということは?」「どうした?」「なにそれ?」「なになに?」「どういうこと?」など、話の先をうながす相槌(やや「問いかけ」に近い)を使ってみましょう。この相槌を使うと、相手の言葉尻や、言葉の切れ端を拾いやすくなります。
先日、今年社会人になった方と会う機会がありました。そこで、「入社して3か月経って、少し物事が見えるようになってきたかな?」と話しかけると、「ええ、見えるようにはなってきたんですけどねえ…」という答えが返ってきました。ちょっと引っかかったので、「というと?」とうながしてみたら、「仕事の難しさがわかってきて、続けられるかどうかわからない」という不安な気持ちがあふれるように出てきました。
話の先をうながす相槌は、部下の話に疑問を覚えたり、部下の不満や不安、戸惑い、ためらいなどを感じ取ったりした時に、やさしく問いかけるように使うと効果的です。ちょっとした話を聞いてあげることで、救われる部下は多いと思います。ご自身のためにも、そして部下の方のためにも、ぜひ使いこなせるようになってくださいね。
今回も、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。次回は、「上司との対話」について考えます。今も昔もサラリーマンの酒の肴は「上司の悪口」です。たしかに、「やっかいな上司」はたくさんいますからね。とはいえ、上司を悪者にするだけでは何も解決しません。そこで次回は、「受け身にならず、積極的に上司を動かすためにはどうすればよいか」という観点で、上司との対話について考察したいと思います。
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