自己認識と他者認識のギャップを埋める

 「自分はこういう人間である」という自己認識と、周囲の人から見た「この人はこういう人間である」という他者認識は、往々にして一致しないものです。一般に、自分に対する評価は甘くなりがちです。とはいえ自分を過小評価している場合も少なくありません。この自己認識と他者認識のギャップが大きいのは、個人としても組織としても好ましいことではありません。ライフストーリー・インタビューで、このギャップを修正することができます。

 部下は、「わかってくれた」という実感がわくと、上司の言うことを素直に聞くようになります。やはり、自分のことをよくわかってくれる人の話は、多少耳が痛くても受け入れるものですからね。なので、扱いに困っている部下にこそ、ぜひライフストーリー・インタビューを試していただきたいと思います。

 私は仕事柄、数多くの人たちにライフストーリー・インタビューをしてきました。その経験で言うと、20代で2時間、30代で3時間、40代で4時間ほどかかります。もちろん、こんなに時間をかける必要はありません。人生を通しで語ってもらえばよいだけですから、あまり硬直的に考えないでくださいね。

 それから、「いきなり部下に行うのはハードルが高い」という場合、同僚や親しい知人などに頼んで練習させてもらうとよいでしょう。

 余談ですが、私は亡父にもライフストーリー・インタビューを行いました。おかげで、父親の人生がよく理解できたし、話し終えた父も満足そうにしていました。親の人生って、案外と子供はわからないものです。葬儀の参列者の話を聞いて、親の意外な一面を知ることが珍しくないと言います。父親を亡くした後に、「もっと会話しておけばよかった」という人も多いですが、ありがたいことに私にはそういった後悔がありません。ちょっと照れくさいかもしれませんが、親御さんが健在でいらっしゃる方は、ぜひその人生経験をお聞きになってみてください。

顧客と同じく、部下も進行形で理解する

 「営業で顧客の無理な要求に振り回されないために」の回で、「顧客の状況を聞いていく時には、過去⇒現在⇒未来という進行形で理解する」というお話をしました。これは、部下を理解する時も同じです。部下は、これまでどのような経験をしてきたのか。そして、現在の自分自身をどう認識しているのか。さらに、これからどのようなキャリアを築いていきたいと考えているのか。このように上司が理解してくれると、部下としては「本当にわかってくれた!」と実感するものです。

 進行形で理解すると、部下に指示・命令・指導を与えやすくなります。たとえば、難しいミッションを与える時に、「今いるメンバーの経験からすると、この難題に取り組めるのは君しかいないんだ。それに、このミッションを果たせば、君の経験にあるこの部分の空白を埋めることができるよね」という言い方ができます。こう言われれば、部下としても勇気百倍で取り組んでいくことでしょう。

 ライフストーリー・インタビューは、相手をよく理解し深い信頼関係を構築する手段として、部下だけでなく様々な人に試してほしい手法です。行う際には、必ず相手の立場になって親身に話を聞くようにしましょう。そうすると、いろいろな人の人生を疑似体験することになります。相手と自分の間にあるギャップが大きければ、それだけ幅広い経験を得られることになります。とてもお勧めの手法ですので、ぜひ機会を見つけて取り組んでみてくださいね。

 最近は、数多くの適性検査が開発され、採用や配属を判断するのに利用されることが多くなりました。私は適性検査の利用には賛成の立場ですが、とはいえ頼り過ぎは禁物で、参考程度に止めるべきだと考えています。やはり、多少手間がかかっても、対話によって相手を理解することが大切です。ライフストーリー・インタビューが、もっと多くの職場で行われることを願っています。

 今回も、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。次回も、引き続き「部下との対話」について考えます。文句や要求ばかり言う、悲観的な話ばかりするなど、部下もいろいろです(苦笑)。そこで次回は、こうした「扱いが難しい部下」の話をどう聞いていくかについて、考察してみたいと思います。