サポーティブリスニングの「極意」

 前回のコラムで、「引きずる前に、寄り添うことが大切」とお話ししました。「相手が見ている風景を、肩を並べて一緒に見るような感じ」で話が聞けるようになると、相手は本音を話しやすくなります。すなわち、「こちらが見たい風景」を見せてくれるようになるわけです。

 さらに、こちらの話を受け止めるようになるので、「こちらが見せたい風景(提案や指導)」を見てくれるようになります。実は、このプロセスこそがサポーティブリスニングの「極意」です。

 筆者は、よく経営者から相談を受けます。そのような時、まずは「相手が見ている風景」を汲み取るように聞いていって、状況を把握する。次に、「資金面は?人材面は?」など「自分が見たい風景」を掘り下げるように聞いていく。その上で、「こうしたらいかがでしょうか?」という「自分が見せたい風景」を提案するようにしています。

 「聞き上手な人は、話し上手な人が多い」と言われます。これは、「相手の頭の中を想像しながら聞く」ことと「相手の頭の中を想像しながら話す」ことは、ともに「相手の頭の中を想像する」点で共通しているからです。このコツがわかると、「話す」ことと「聞く」ことは別々ではなく、一緒であることが理解できます。そのため、サポーティブリスニングの概念を理解して実践すると、わかりやすい説得力のある話し方も自然とできるようになります。

 以上の理由から、「相手と肩を並べて同じ風景を一緒に見るように会話を進めていく」を実践すると、自然と関係が良好になって理解が深まり、双方の間で合意が生まれやすくなります。筆者が、「聞くこと」からアプローチして対話力を強化する手法を重視しているのは、こうした理由によるものです。

対話力の強化は、組織の生産性向上につながる

 対話力の強化は、個人だけでなく組織の生産性を高めることにつながります。

 生産性の向上は、人類が分業を始めたときにスタートしました。海で働く漁師、山で働く猟師、畑で働く農夫がそれぞれ一生懸命に仕事することで、3人とも魚も肉も野菜も食べることができます。「分業」が生産性向上のポイントであることは、今も昔も変わりません。

 ところが、現在のホワイトカラーの仕事は高度化・複雑化しているため、「作業を分担する(業務の線引きをする)」ことによる分業が難しくなっています。ボストンコンサルティンググループでディレクターを務めるイブ・モリュー氏は「組織の生産性が低下する原因は、明確・責任・評価である」と言い切っています。無理に業務の線引きをしようとすると、かえって生産性が下がってしまうのです。

 ホワイトカラーの生産性を向上させるには、「作業を分担する」のではなく「考えることを分担する」必要があります。コンピューターの処理能力が飛躍的に向上したのは「分散処理」ができるようになったからです。これは、人も同じです。上司の頭だけに依存して、部下は何も考えずに動いていたら、分散処理ができていないことになります。逆に、上司が方針を考え、部下が具体的なプロセスを考えることができたら、分散処理ができていることになります。分散処理には、接続が良好であることが必要です。すなわち、対話力の強化が欠かせません。

 野球やサッカー、ラグビーなどのチームスポーツでは、スタープレーヤーを集めるだけでは勝てないことがすでに常識になっています。各自が役割を果たすだけでなく、チームのことを考えてお互いをカバーし合いながらプレーしなくては勝てないわけです。そのために、選手たちはロッカールームなどでも短時間で濃密なコミュニケーションをとっているそうです。このチームスポーツで当たり前のことが、ビジネスの現場では当たり前になっているとは言えないと思います。ホワイトカラーの生産性がなかなか向上しない理由はここにあります。

 筆者は、対話力を強化する教育だけでなく、それを生かして生産性を向上させるコンサルティングにも力を入れています。特に中国では、「協力する」という概念がもともと希薄なため、対話力の強化⇒分散処理⇒生産性向上というプロセスを踏むと、効果が劇的に現れます。日本においても、すでに始まっている人口減少・高齢化社会を豊かに過ごすために、生産性の向上は欠かせません。微力ながら、これからの社会を明るくするお手伝いができればと思って仕事に取り組んでいます。

 ここまで、話を聞いていくために必要な考え方について説明してきました。次回以降は、「このような人を相手にした場合、どのように聞いていけばよいか」というノウハウを具体的にお話ししていきます。

 研修をしている時に一番多い質問が「無口な人・気難しい人に、どう対処したらよいか?」です。たしかに、相手に発言してもらわなければ対話が成り立ちません。次回は、そのために必要なノウハウをご紹介します。