クレームや交渉にも有効

 クレームや交渉の時も、「相手と肩を並べて」を意識して話を聞いてみましょう。「聞くことが大切ですよ」とお話しすると、「何でもかんでも、とにかく話を聞けばいいのかな?」と誤解する人がいます。しかし、クレームや交渉の時、相手の「主張」を聞いてばかりいるのは得策とは言えません。「弁償しろ!」「賠償しろ!」「もっと単価を安くしろ!」という話をひたすらフムフムと聞いていても、お互いの関係が好転することはないし、歩み寄る余地も生まれません。

 このような時は、「相手の主張」ではなく「相手が置かれている状況・立場」を聞くようにします。なぜ、こういう主張をするのか。その言葉を発するに至った意図や背景が存在するはずです。その部分を汲み取るつもりで話を聞いていきましょう。

 たとえば、取引先が突然難しい要求を突き付けてきたら、「今日は、ずいぶん厳しいことをおっしゃいますね。何かあったんですか?」と聞いてみましょう。そうすると、「急にコストダウンのキャンペーンが始まって、対象となる製品の仕入値を一律で下げるよう通達がきた」などの話が出てきます。

 こうした背景がわかれば、「対象製品の値下げを飲む代わりに、それ以外の製品を値上げして利益を確保することはできないか?」という交渉が可能になります。交渉とは、無理な要求を突き付けて相手に飲ませることではありません。相手とこちらでは立場が違うわけですから、その立場の違いを利用して、双方が飲みやすい状況を作りながら、こちらの利益を極大化していくことです。

(6)相手が考えを深めるための題材を提供する

 「相手が見ている風景を、肩を並べて一緒に見ているような感じで話を聞きましょう」というと、「とはいえ、相手と完全に視点を一致させることはできませんよね?」という質問を受けることがあります。その通りで、現実的には、知識、経験、立場などが異なる者同士が視点を完全に一致させることはできません。どうしても「ずれ」が生じるものです。「肩を並べて」と表現しているのは、そのためです。

 しかし、「ずれ」が生じるのは決して悪いことではありません。両目があることで遠近感や立体感がわかるように、同じ風景を違う視点で見ることで、相手に気付きを与えたり、状況を再認識させたりすることができます。「自分の立場になって話を聞いてくれている」と感じると、相手はこちらの話を素直に受け止めるようになります。ですから、それほど表現に気を使わなくても、自分が感じたことを率直に伝えるだけで相手の考えを深めることができるわけです。

 多くの人は、会話の時に「自分が発言すること」にとらわれ過ぎています。もう少し、「相手の立場を理解すること」に注力しましょう。そうすれば、より的を射た発言をすることができます。さらに、相手はこちらの話に対して「聞く耳をもつ」状態になります。結果として、会話が有意義なものになっていきます。