よく知られている「背負い投げ」という技は、相手を「どっこいしょ」と背負って投げるのではありません。相手のバランスを少し前に崩して、その下に潜り込むと相手は背中の上でグルンと一回転してしまいます。

 「くずし」をしなければ、強い相手を倒すことはできません。だから、柔道の試合を見ていると、技をかけるのはほんの一瞬で、ほとんどの時間を「くずし」に費やしています。「くずし」はそれほど大切なのです。腕力を鍛えて技をかけることばかり熱心に取り組む人がいますが、そういう人は決して強くなりません。

 ビジネスでも同じです。「説得・指導・提案」ばかり熱心に行うのは、腕力だけで相手を倒そうとしているようなものです。これは、努力の方向が間違っています。そうではなく、「聞くこと」によって相手をよく理解し、「この人は、自分のことをよくわかってくれている」という信頼関係を築いてから「説得・指導・提案」をすれば、相手は素直に聞き入れてくれるものです。このように、「聞くこと」は相手を動かすために欠かすことのできない能動的な行為なのです。

傾聴だけでは足りない

 ここまで「聞くこと」の大切さについてお話ししてきました。このようにお話しすると「それじゃあ、傾聴すればいいのね」と安易に考える人います。残念ながら、「どうやって聞いていくか?」という「大きな穴」を埋めるには、傾聴だけでは足りません。そもそも、相手が話してくれるからこそ傾聴できるわけです。もし相手が気難し屋で話してくれない人だったら歯が立ちませんよね。また、もし相手がおしゃべりな人だったら、一方的に話を聞かされる状態に陥りやすく、やはり対話になりません。

 筆者は「サポーティブリスニング」という概念を提唱しています。相手が話してくれないのには、「気持ちの準備ができていない」「話す内容が準備できていない」など、いくつかの要因があります。また、相手が余談ばかりするのは、「何を話したらよいかわかっていない」可能性があります。そうした要因を理解し、相手をサポートしながら話を聞いていくのが「サポーティブリスニング」です。傾聴するだけでなく、もっと能動的・主導的に話を聞いていくのが特徴です。

 サポーティブリスニングの教育を、昨年から中国でも提供しています。一般的なイメージとして「中国人は話を聞かない」と思われていますが、一概にそうとは言えません。例えば、自分の上司・先生などの話を聞く時は、日本人とは比べものにならないほど熱心に辛抱強く聞いています。

 しかし、対話の姿勢は褒められたものではなく、相手を打ち負かそうとするしゃべり方をする人がたくさんいます。これは、人口が多く苛烈な環境で生き抜いてきた中国人の歴史的・文化的背景からすると、やむを得ない面があります。そのような中国人たちに、「傾聴しましょう」といくら言い聞かせても行動は変わりません。

 しかし、サポーティブリスニングを教育すると、「自分は聞いていない・聞けていない」ということをきちんと認識して、素直に行動を改めるようになります。中国人は、はっきりしているので、自分にとって得にならないことはやりません。サポーティブリスニングは、話を聞くことによってメリットがしっかり得られるので、学んだ人たちはスイッチが入ったようにやる気になります。中国では、商談決定率が30%から70%に向上するなど、日本以上に大きな成果が出ています。

 本コラムでは、これから数回に分けてサポーティブリスニングに必要な項目を説明していきます。その後は「無口な人・気難しい人との対話」「年齢の離れた部下との対話」など、皆さんが日頃難しいと感じている場面を想定して、どのように聞いていくとよいのか具体的に説明していきます。難しい専門用語は一切使わないで、やさしく楽しく解説していきます。目から鱗が落ちるお話をしますので、どうぞ次回もお付き合いください。

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