同じことが、個人だけでなく、組織についても言えます。私はこれまで数多くの企業を見てきましたが、「どうやって聞いていくか?」について組織的に対応しているのを見たことがありません。どの企業も個人まかせにしていて、「できる人はできるけど、できない人はまったくできない」という状態を放置しています。

 実際に、皆さんの会社のことを思い出してみてください。たとえば、営業活動の場合。

  1. 相手に何を伝えたいか?
    →会社案内・商品案内などの資料を作成することで対応
  2. どうやって伝えるか?
    →ロールプレイやプレゼンの練習を行うことで対応
  3. 相手の何が知りたいか?
    →質問票・チェックシートなどを作成することで対応
  4. どうやって聞いていくか?
    →???

 いかがでしょう。「どうやって聞いていくか?」というところだけ何も対応されていませんよね。やはり、ポッカリと「大きな穴」が空いているわけです。

 よく「対話はキャッチボールだ」と言われます。しかし、実際には「ドッジボールのような対話」が日常的に行われています。「伝えること」ばかりに一生懸命で、「聞くこと」をおろそかにしている。これは、ボールを投げつけるばかりで、キャッチすることをおろそかにしているのと同じです。このような状態では、対話がうまくいかないのはあたりまえです。

「聞くこと」は未開発、伸びる可能性がある行為

 ほとんどのビジネスパーソンは、「聞くこと」の重要性を認識しておらず、スキルも磨いていません。これはとても残念なことですが、逆に言えば、「のびしろ」があるのです。「伝えること」に関しては、すでに一生懸命に取り組んできているので、少しくらい努力しても大きな成果は得られません。同じ労力をかけるのであれば、「聞くこと」に注力したほうが得策です。実際に、商談決定率が30%向上するなど、顕著な効果を上げた例がたくさんあります。

 ここで、「聞くこと」についての誤解をといておきましょう。「聞くことは受動的な行為だ」というのは間違いです。相手の話をよく聞くことによって、こちらに対して好意をもってもらうことができます。こちらの話に聞く耳をもってもらうこともできます。さらに、あれこれ言われなくても自発的に行動するように促すことさえできます。

 「聞くこと」は、「伝えること」に比べて表面的には受動的に見えますが、たくさんの効果が得られる能動的な行為なのです。多くの人は、このことを知らないか、知っていてもどうすればよいのかわからないままでいます。

 たとえば、皆さんが「右手に剣、左手に盾」を持って戦うとしましょう。右手の剣ばかり振り回していて、左手の盾は相手が打ち込んできたのを受ける時しか使っていない。「伝えること」ばかり意識しているのは、こういう状態です。

 でも、盾を有効に使うと、相手に接近して急所を狙うことが容易になります。盾で殴りつけて戦意を喪失させることもできます。盾で押さえつけて傷つけずに制圧することもできます。盾には有効な使い方がたくさんあるのに、相手が打ち込んできたのを受ける時しか使っていない。便利な道具なのに、ごく一部の機能しか使っていないわけです。これは、本当にもったいない話ですよね。

「くずし」と「かけ」

 もうひとつ、違う例を挙げましょう。筆者は学生時代に柔道をやっていました。柔道では、技をかける前に「くずし」を行います。柔道の試合を見ていると、組み合ってから相手をゆさぶるような動きをさかんに行っていますね。これを「くずし」といい、相手の体のバランスを崩すことを言います。バランスを崩してから技をかけると、それほど強い力を必要とすることなく相手を倒すことができます。逆に、「くずし」を行わずに、技をかけるだけで倒すことができるのは、両者の腕力によほど大きな違いがある場合だけです。

次ページ 傾聴だけでは足りない