まずは、襲われるリスクを下げる

 しかし、最も重要なのは、襲われるような状況に陥ること自体を回避することだ。極限状態に陥ってしまえば、小手先の対策を講じても生存率を上げることは難しくなる。大使館や外国の企業が密集する地域やホテル、レストラン、空港に滞在することはなるべく避ける。やむを得ず訪れる場合は極力、短時間にする。

 特に避けるべきなのが、施設の出入り口や到着・出国ロビー付近に長く滞在することだ。セキュリティチェックがなく侵入しやすい。自爆テロや複合攻撃が行われると被害が最も大きくなる。6月28日にイスタンブールの空港で起きたテロでも、こうしたエリアが狙われた。

 アフガニスタンやソマリアでは、国連職員や援助関係者などの外国人が滞在できるホテルやレストランには一定の基準が設けられている。警備員の配置など、十分なセキュリティ対策が取られているのはもちろんのこと。大通りに面していないことや、入り口ゲートと店の建物の間に一定の距離があることなどが定められていた。大通りに面していると、誰でも店舗に入ることができてしまう。爆弾を積んだ大型車両が突撃することもある。入り口ゲートから離れるのは、手榴弾を投げ込まれても、届かないだけの距離を保つためだ。仮に侵入されても、多くの客に到達する前に止めることができる。

ソマリアで活動した時には、筆者1人を護衛するのに4人の武装警官が付いたことがある。護衛がいることが逆にリスクになる場合もあるので、的確な判断が必要だ

 私自身、危険地域の宿泊先では、どのルートで逃げるべきかをシミュレーションしている。さらに、近くで爆発が起きた際に窓ガラスの破片で傷つかないよう、厚手のカーテンを常に閉めておく。ベッドが動かせる場合は、窓際から遠ざけて配置したりもする。

 また、国や地域ごとに、テロ攻撃や犯罪が増える時期がある。これを踏まえて出張・移動計画を立てることも有効だ。また、イスラム教徒の信仰心が高まるラマダン期間に、テロ組織が「テロを行うことが善行」として集中的な攻撃を煽ることがある。今年もラマダンが終了する直前が最も危険だと全世界的に注意が喚起されていた。そして実際に、ダッカだけでなく、イラクやマレーシアでもこの時期に大規模なテロ攻撃が集中して発生した。

 アフガニスタンでは、武装勢力タリバンが毎年、雪融けの時期に「春季攻勢をこれから始める」と宣言する。キリスト教系の国では、クリスマス前に犯罪が増える傾向がある。

情報の収集と分析を怠ってはならない

 2006年以降に欧米諸国で起きたテロの7割は、単独もしくは小規模なグループが実行するローンウルフ型だ。国際的なテロ組織が組織的に計画したものではない。イラクやシリアではイスラム国の勢力が弱まってきており、その分、両国の外でジハードを呼びかけているからだ。両国に辿りつけない志願者は、周辺のトルコや経由地となりうる国々でテロ攻撃を起こす。イスラム国がそれを後から承認する流れが起きている。

 そもそも、政情が不安定な国には、社会に不満を抱える集団や反政府武装勢力がいる。「社会に対してより大きな役割を果たす」という野心や焦燥感を持っているエリート層や、人生に行き詰まって活路を見出そうとする若者が、自分自身とその行動に大義を与えてくれるイスラム国やアルカイダなどに付け込まれやすい土壌がある。

 バングラデシュではここ数年、日本人を含む個人をターゲットにした殺害事件が起こっており、イスラム国が犯行声明を出していた。対策が取られない限り、さらに同国内で過激な攻撃が行われる状況が続く。

 また、イスラム国自身、手詰まりの状況であるイラクやシリアから、アフリカ、中東、アジアなどの国家機能が脆弱な国に拠点を移す、もしくは分散させる可能性がある。ソマリアの武装勢力アルシャバブのように、内部分裂が起こりつつある組織もある。年配の指導者層はアルカイダに忠誠を誓う一方で、若手の兵士たちがインターネットを通じてイスラム国により惹かれているのだ。これらの状況の変化に合わせて、私たちが直面する脅威の形も変容していく。

 日本人が巻き込まれていないテロ事件であっても、関連する情報をコンスタントに収集し分析する体制作りが不可欠だ。イスラム国やアルカイダなどがどのように変化しているか、そして、それがどのような影響を起こすか、把握するのに役に立つ。離れた地域で起きた事件であっても密接にリンクしている可能性がある。こうした姿勢の重要性は、国家であれ、組織であれ、個人であれ変わらない。