
今回は交渉術の話をお休みにして、テロから身を守るすべについてお話しする。
バングラデシュの首都ダッカのレストラン襲撃テロで日本人7人を含む22人が犠牲になった。犠牲になった邦人の皆さんは国際協力の開発コンサルタントとして従事していた方々で、私と働く業界も近い。謹んで哀悼の意を表します。
今回の事件で「親日国であるバングラデシュでなぜ」という報道があった。まずは海外の滞在地域で自分たちが「誰に」「どう見られているか」を多角的に把握する必要がある。
NGOとして海外で復興支援や平和構築活動を行う際は、日本人・日本の組織であることが好意的に受け取られる地域が多く、それが強みになる。しかし、平和を壊す側、犯罪者、テロを行う側からすると、その見方は180度変わる。テロは、国際的に大きな衝撃を与えることで自分たちの存在や主義主張を誇示することが目的であるため、外国人、とりわけ先進国出身であること自体がリスクとなる。このため、私が理事長を務める日本紛争予防センターがアフリカ・中東などで安全対策の活動をする場合と、取締役を務める JCCP Mで企業に対して危機管理サービスを提供する時とでは、完全に視点を切り替える。
宗教や文化を理解する
今回の事件で犯行グループは、イスラム教徒であるかどうかを選別した。さらに、イスラム教徒であっても、服装などから「敬虔でない」とみなした者を殺害している。
異教徒を選別すること自体は、目新しい手法ではない。例えばアルカイダ系の武装勢力はイスラム教徒の犠牲を極力控える方針をうたっている。2013年9月にケニアのショッピングモールで起きた襲撃事件(240人以上が死傷した)でも、コーランの一節を唱えることができるか、もしくは預言者モハンマドの母親の名前を答えられるか、などを犯行グループが尋ね、答えられなかった者を殺害している。2015年11月に西アフリカのマリの高級ホテルで起きた襲撃でも同様の選別が行われた。
コーランの一節を暗記して備えるのも一つの手かもしれない。しかし、この手法が一般的になれば通用しなくなるし、見せかけだと分かると逆にイスラムを冒涜していると取られる危険もある。重要なのは滞在国の宗教や文化そのものを理解する姿勢だ。現地の文化を理解することで、自分の立ち振る舞い、見た目、服装、持ち物などが滞在国の人々にどう映るのかを客観的に把握できる。現地の文化に沿った格好や行動を取る意識を磨くことにつながる。
また、日頃から現地社会に敬意を払い、個人的な信頼関係を築くことも大事だ。襲撃時に現地スタッフが率先して外国人の同僚を守った例がある。
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