余談だが、当時のカルザイ大統領は基本的に明るい楽天家だった。深刻な問題を抱えて会っても、話し終わった後は、なんだかみんな明るい気分になる。ただし、よく考えると、問題自体は解決してなかったりする。彼は記憶力も良かった。一度説明したことは大体覚えている。大統領として日々多くの人に会っているのに、「きみは先週その席で寒そうにしていた。こっち側に座ったほうがいいんじゃない?」と私に尋ねたときは驚いた。

 自分より格上の誰かと交渉するための戦略を考え、日本大使に提言する日々のなか、私はまもなく不眠症になった。寝ようと思っても、部隊番号と司令官の名前が頭に浮かんでくる。原因は、このプロジェクトに参加する国がそれぞれに持つ思惑だった。一見したところ仲間に見えるが、事はそれほど単純ではない。日本が利用されないよう、相手が発する言葉の裏を考え、どんな戦略で働きかけるべきかを何時間も考えてしまうのだ。

 例えば会議の場で「今は武装解除が最優先だ」と合意したにもかかわらず、米国がある地域での武装解除は遅らせたほうがよいと主張したことがあった。治安が悪すぎる地域で十分に安全を確保できないからなどの理由を伝えてきたが、実は「タリバン掃討のために米国が雇っている武装勢力がいるので解体されては困る」という事情があった。

 第一線の政治指導者や司令官、外交官に揉まれて濃密な経験を積んだ日々だった。こうした経験をしたおかげで、オンとオフの切り替えは上手になった。交渉に関わらなくてよいときは思いきり気を抜いている。ということで、皆さんが私にどこかでふと出会うことがあっても、ギラギラと目を血走しらせていることはないと思うので、その点はご安心ください。