自分も身構えない

 相手を身構えさせないのと同じくらい大事なのが、緊張のあまり自分が身構えないこと。そして、自分の緊張が相手に伝わらないようにすることだ。

 この時の私は、国連PKOの兵士相手に身の程知らずの交渉を行うことにかなりの引け目を感じていた。見渡すと多国籍の兵士と武器が並んでいる。PKOの現場に足を踏み入れるのも初めてだったのだ。それだけに、相手と同じホテルに泊まり、会うまでの間に精神的なバリアを取り去れたことは、私自身にも意味があった。

 身体的な動きも、心の持ちように影響する。ホテル内では背筋を伸ばして現場慣れした風を装った。実際には、食費の余裕もなく、ホテルが無料でくれる水とフランスパンだけで生き延びていたのだが。

 国連PKOとの最初の話し合いには、これから多額の資金が必要になるであろう武装解除プロジェクトに対して、日本政府から支援を得るための提案をまとめて持っていった。日本は武器を扱う武装解除への支援は難しいこと、元兵士への職業訓練の分野であれば日本が支援をしやすいことなどを提案した。

 この時の私は、ルワンダ勤務の契約が終わる直前の有給消化期間だったので、所属団体として提案をするわけにはいかない。唯一自分が役立てるのは、現地で情報が皆無だった日本政府の援助方針について助言することだった。そのために寝る時間を削って日本の援助政策を調べ直して資料を作った。

 この作戦は有効だった。提案に関心を持ってもらうことができ、大統領顧問への面会をアレンジしてもらった。加えて、国連専用のヘリコプターで地方を視察することへの許可を得ることもできた。無謀な賭けでもあったが、2週間の滞在中に、希望していた現場視察をほぼすべて達成することができた。

自分の目的を果たすためにできない約束はしない

 こうした交渉をする時に最も避けなければならないのは、短期的に自分の目的を達成するために、実行できる可能性がない提案をすることだ。実際、現地の人々に支援を約束し、その見返りとして自分の調査に必要な情報を得たにもかかわらず、その後、音信不通にしている研究者がいる。このようなことをすると、その個人の小さな目的のために、現地の和平や復興に向かう意志を削ぐことになりかねない。

 復興支援に取り組む現場で頻繁に使われる言葉に「Do No Harm」がある。善意でしたつもりの支援が、現地に害を及ぼすことがあるという戒めの言葉だ。交渉を行う際にも不可欠な視点である。

 ちなみに、その後の私はと言うと、シエラレオネの武装解除プロジェクトに自ら関わることになった。日本に帰国したのち、シエラレオネの調査で得た結果を専門誌に投稿したり、外務省と情報を共有したりした。それがきっかけとなり、半年後には、シエラレオネの国連PKOへの就職が決まった。自分がかつて提案した日本からの支援や現場の事業を自分の手で行うことになった。

 前出の大統領顧問はその後、国連に転職。スーダンなど他の現場で顔を合わせることになった。今では、気さくに付き合う仲になっている。かつて電撃訪問したことは、いまや笑い話のタネだ。