まずは現場から

 転職の「目的」と同じくらい重要なのが「順番」だと思う。私にとって鍵だったのが、原体験を得るタイミングだった。最初の就職先は、支援が必要な現場に最も近く、小回りのきく立場で働けるNGOにしようと決めていた。

 国連や外務省などの大きな組織で最初の経験を積むと、大きなことを自分の力でしていると勘違いするのではないかと懸念した。下駄を履かされたことに気づかないまま、その後のキャリアを歩んでしまうかもしれない。さらには、大組織のしがらみありきの判断をするようになり、現場のことを軽視してしまうのではないか。とくに、私は地方出身で自分に大した取り柄がないことにコンプレックスを持っていたので、「いざとなったら一見洗練された長いものに巻かれちゃうんじゃないかな」という不安があった。

 だから、自分の原点となる視点を紛争地の現状に接することで持ちたかった。この選択は正しかったと思う。大きな組織のしがらみに流されて安易に妥協しそうなときは、「現地のあの人たちはどうなるんだろう」と自然と考えるようになった。そうすると踏ん張りがきき、もう一度だけ解決策を考えてみようと前に進む原動力になる。

 大規模な支援プロジェクトほど、それにより救われる人の規模など「光」の部分に目を向けがちだ。このため、光をどれだけ増やすかが業務の目的になる。しかし、善意の支援でもその反動で「影」が生じる。

 たとえば、内戦に参加した元兵士を和平の名のもとに更生させるプロジェクト。その影には、彼らに家族を殺されたり手足を切り落とされたりしたにもかかわらず、苦渋の決断で和解を受け入れた被害者たちがいる。影となる人たちの多くは弱者であり、大きな声を持たない。目に見えない。そしてその姿は、支援に当たる組織の決裁書類に載った瞬間に無味乾燥なものになり、温度を失う。

 私は、キャリアの早い段階で、「成功」と評価される事業の影、苦汁を飲まざるを得なかった人々を現場で目の当たりにした。その姿は今でも目に焼き付いている。十分な対応ができなかった当時の自分の不甲斐なさと憤りをはっきり覚えている。この原体験から、プロジェクトや交渉が生み出す成果の陰で副作用が生じていないか、具体的に想像する癖がついた。 

 現場の問題を変えるための本質的な力を身につけるという「目的」を持ち、その目的を最大限達成するために、自分の性格を踏まえた「順番」で転職をした。これが、今日の私が持っている視点やスキルを形作っていると感じている。

NGO、国連、外務省それぞれの特徴

 読者のなかには、同じ援助に関わる国連、外務省、NGOの具体的な違いがいまいち分かりにくいという人もいるだろう。

 国連機関は、世界中からスタッフが集まるので国際色が豊かだ。多様性のある職場環境で、仕事の手法や文化、新たな価値観を学ぶことも多い。

 プロジェクト予算は数億~数百億円規模。一つの国家の行く末も左右しうる大規模なプロジェクトに関わることもある。食糧、難民、子どもなど、専門性に特化した活動を直接実施することもできる。

 しかし、組織のマンデートを超えたニーズに対して柔軟に行動することが難しい。少しの変更をするにも、相当な労力と時間が必要だ。機関によっては現場活動の多くをNGOに委託するため、現地レベルの支援を直接経験できないという側面もある。

 アフリカで活動する国連プロジェクトで、元兵士の武装解除を担当していた際、事業が期待された成果を出しておらず、改善すべきとの意見がチーム内で上がった。しかし、結局、何も変更しないとの決断が下された。手続きに時間がかかりすぎるのが理由だった。これを機に、やりがいを維持できない同僚たちが次々に現場を去っていった。

 外務省での仕事は、担当する国や地域の課題に政策レベルで深く関わることができる。国連やNGOの活動資金の一部は各国政府からの援助で成り立っているため、外務省で働けば、さまざまな機関に対して提案をしたり、連携したりすることもできる。担当する仕事によっては個人の裁量が大きいため(人が足りないので仕事が多いという理由もあるが)、自分が望めば大きな仕事に取り組むこともできる。