現地の人たちの悩みを聞いてあげれば、少しは癒やしになるのではないかと思っていた。だが、「虐殺で親戚が30人以上殺されて、生き延びたのは自分だけだ。絶望感しかない」と打ち明けられても、当時の私には「それは…大変だね…」と間の抜けた相槌を打つことしかできなかった。自分はなんておこがましかったのだろうと恥ずかしくなった。現場で役に立つにはそのためのスキルが必要、という当たり前のことに初めて気づいた。

 同時に「学歴や所属や肩書に頼ることなく、現場に身一つで放り込まれても変化を生める人間になりたい」と強く思った。それまで日本で生活するなかで重視されていた学歴や肩書きが、現場では役に立たなかったからだ。所属や肩書きを持っていないと自信が持てないのは、自分自身が肩書きに負けているということ。転職しても、「元○○社員」と過去の経歴を持ち出さないと自信が保てない人は、過去の自分に負けていると感じる。

国連での経験がNGOで生きる

 異なる組織に属して、その内部事情やシステムを学ぶことで、意図していなかったメリットを得ることができた。別の組織と折衝する際に、相手側の利害や制約を踏まえて協議ができるからだ。相手側の組織に生じうるリスクを先回りして対策を取ることもできる。信頼関係も築きやすい。

 例えば、日本紛争予防センターは私が加わるまで国連機関と提携したことがなかった。国連は名前を聞いたこともない組織と契約することに後ろ向きだった。しかし、私が初めて国連と交渉をした際、国連職員が使う専門用語や事業を管理する内部の仕組みを把握していたので、話がスムーズに進んだ。

 外務省に勤務した経験を生かして、国連側にメリットのある資金調達の方法をアドバイスしたのが功を奏して、頼りにしてくれるようにもなった。この結果、今では国連側から業務提携を持ちかけられることも増えた。

 紛争地で和平と復興を進めるのは、壮大なミッション・インポッシブルに挑むようなもの。目標を達成するため、さまざまな技術やリソースをもつ仲間を確保し、連携する必要がある。しかし現実には、組織の文化の違いから生まれる摩擦や情報共有の不足などが原因で、本当に必要な支援が現場に届かないこともある。さまざまな組織の間をつなぐことのできる人材がいるかどうかで、プロジェクトの成果は大きく左右される。

組織と組織をつなぐ架け橋

 数年前に、ソマリアで活動する国連機関からの要請で治安改善プロジェクトの立ち上げに関わったときのこと。国連側と現地NGOの間に摩擦が生じたことがある。

 活動地が危険なため、国連職員は現場入りできない状況にあった。一方、唯一、活動できるソマリアの現地NGOは会計能力に不安があった。国連側は、予算が浪費されるリスクを回避したいので削減を要求。現地NGOは、本当に必要な経費まで疑われることを理不尽と感じていた。現場のリスクを全て引き受けなければならないことにも抵抗があった。

 膠着状態は1カ月も続き、プロジェクトは動かないまま。事態は、感情的にもつれる段階まで悪化した。そこで、本来の私の仕事ではなかったが仲介することになった。

 NGOと国連どちらの内部事情も理解していた私は、どちらの側からも味方と捉えてもらえたのが大きかった。双方を行き来し、徐々にその間のギャップを埋める提案をした。筋が通らないことや、現実的ではない点は、どちらにも率直に伝えた。それでも角が立つこともなく、客観的な提案と感じてもらえた。1週間後には何とか両者の仲をまとめることができた。