人は1日に約2万回以上、自身に質問を投げかけていると言われている。だからこそ、質問の「質」や「投げかけ方」を改善すると、思考がより深まり、質問から導き出される「答え」も飛躍的にレベルアップし、革新的なアイデアの発想や難しい課題の解決につながる。こうした「質問の力」をビジネスに応用する専門家がいる。「しつもんコンサルタント」の河田真誠氏だ。近著『革新的な会社の質問力』の中で河田氏は、人は問題や課題に直面すると、「答え」を他社の成功事例など外部から探そうとするが、本当に必要な答えは悩んでいる企業や経営者自身の内側にあり、質問を使えば本当に必要な答えを自力で引き出せるようになると説く。河田氏に、ビジネスで結果を出すための質問力の身につけ方と、実践的活用法をレクチャーしてもらった。
(柳本 操 = フリーライター)
河田真誠(かわだ・しんせい)
しつもん経営研究所(有)代表取締役。1976年生まれ。広島でデザイン会社の経営や、口コミだけで1000人規模のイベントを毎月主催した経験をもとに、独自の集客プログラムを開発し、企業へのコンサルティングを始める。教えるのではなく「しつもん」をするスタイル、わかりやすい切り口、そして実際に結果が出るコンサルが評判を呼び、全国にクライアントを持つ。集客、問題解決、マネジメント、営業など、企業コンサルティングでの「しつもん」のノウハウをまとめて、「しつもん経営」としてプログラム化し、多くの企業にコンサルティングや研修として提供している。最近では、企業でしつもんする「しつもんコンサルタント」の育成や、起業家支援、ビジネスモデルのプロデュースにも力を入れている。
しつもんの効果を左右する「しつもんマインド」
前回は、しつもんがビジネスにおける新たな発想を促す突破口となること、また、しつもんといってもいろいろな種類があることをお伝えしました(相手のためになる良質な質問を、ほかの質問と区別するため、ひらがなで「しつもん」と表記しています)。
今回は、しつもんをビジネスの現場に取り入れる前に、必ず知っておいていただきたい「しつもんマインド」について話します。しつもんマインドとは、「しつもんする側が備えておくべき心構えやスタンス」のことです。
実は、しつもんの文言をマニュアルのように暗記するだけでは、しつもんが効果を発揮することはありません。同じ文言でも、どんなマインドを持った人がその言葉を発するかで、相手に与える効果はまったく異なるのです。
大事なのは「何を言うか」ではなく「どんなマインドで言うか」
例えば、上司が部下に「いま、できることがあるとしたら何?」というしつもんを投げかけたとします。新たな課題に取り組もうとしている部下の「最初の一歩」を見つけてあげたいというマインドを持つ上司が使えば、とても効果を発揮するはずです。
ところが、暇そうに見える部下に向かって、同じ文言を嫌みを込めて言うこともできます。前回の「質問の分類」で見ると、こちらは「しつもん」ではなく「尋問」になってしまいます。
しつもんで大切なのは、「何を言うか」よりも、「どのようなマインドでしつもんを発するか」ということなのです。同じアドバイスでも、自分が尊敬している人から言われると、より聞く耳を持ちますよね。それと同じです。
しつもんの力を最大限に活かすには、自分自身の人間性や「相手のため」という心のスタンス、つまり「しつもんマインド」を鍛えることが重要です。
しつもんの良さを最大限に活かすために身につけるべき「しつもんマインド」は7つあります。少し遠回りのようですが、しつもんの上達だけでなく、これから先、何が起こるか予測できない時代を生き抜くためのビジネスセンスを鍛えるうえで欠かせないものです。少しずつでかまいませんので、日常の中で意識してみてください。
では、1つずつ解説していきましょう。
(しつもんマインド1)思い込みを捨てる
しつもんする側のスタンスは、プラスでもマイナスでもなく、フラットであることが大切です。そのためには思い込みや先入観という「主観」と「事実」とを分けて考えることが欠かせません。
たとえば「今日は暑い」というのはあなたの主観。一方、「今日の最高気温は35度だった」が事実です。経営者やリーダーはどうしても「社員・組織はこうあるべきだ」という思い込みや先入観が強くなりがちですが、先入観が強すぎると、社員の成長を阻み、組織の調和を乱すことにもなりかねません。
「思い込みを捨てる」マインドを身につけるワーク
あなたがいま、仕事に対して「べきだ」と思っていることを書き出し、本当にそうなのか、反対ではだめなのか、考えてみてください。
(しつもんマインド2)相手を信じる
部下がミスをした、あるいは、非常に難しい課題に直面し、緊張しているとき。あなたは部下を全面的に信じることができるでしょうか。
仕事ができる人の中には、人を信じることが苦手な人が少なくありません。部下に「見積もりはこう書け、顧客との交渉はこう切り出せ、おれの言っている通りにやれば間違いない」と手取り足取り指示・命令を出そうとしていないでしょうか。
人の欠点は見えやすく、誰でも指摘しやすいもの。しかし、欠点を指摘して指導した気になっても、そこから生まれるのは反発や萎縮で、相手の成長は見込めません。
「相手を信じる」マインドを身につけるワーク
いきなり「相手を信じろ」と言われても難しいかもしれません。「もし、自分であれば上司からどんな関わり方をされたいか」を考えてみましょう。
(しつもんマインド3)愛の選択をする
「今日はパンに何を塗ろうか」「何を着ていこうか」というふうに、私たちは日々、質問と決断を繰り返しています。決断時に大切なのは、何をもとに判断するかという「基準」。その基準には「おそれの選択」と「愛の選択」の二種類があります。
「おそれの選択」とは、「○○しなければ」といった不安を基準にした選択のこと。プレッシャーがかかっているときほどこの選択をしがちですが、「やらされている感」が強くなり、おそれの選択をする人には自然と愚痴っぽい人が集まってきます。
一方「愛の選択」は、楽しさや心地よさを基準にした選択のこと。自分はもちろん、関わる相手がどうすれば喜ぶかを基準にして考えます。「そんなのんきな考えはビジネスでは通用しない」と思われるかもしれません。しかし、愛の選択をする人の周りには、温かい輪が生まれ、心地いい人脈が築かれていきます。
「愛の選択をする」マインドを身につけるワーク
「今日の会議は長そうで嫌だな」というのはおそれの選択です。そんな時は「どうすれば、心から楽しめるかな?」と自分にしつもんしてみましょう。
(しつもんマインド4)どんな答えも正解
相手がどんな答えを返してきても「いいね」と返すのが、しつもん者の必須条件です。
人は、自分が正解だと思わない答えのことを頭から否定しがちですが、大切なのは、正しい答えを見つけることではなく、ひたすら傾聴することです。相手に答えを考えてもらう中で、さまざまな気づきが生まれます。相手の答えをジャッジしてしまうと、それ以上掘り下げるチャンスを奪ってしまいます。
「どんな答えも正解」マインドを身につけるワーク
相手の答えを聞いても欠点がどうしても気になる。そんな人は寝る前に「今日、うまくいったことを3つ書く」習慣を実践しましょう。いいところを見つけるのが上手になると、自分とは異なる考え方を受け入れる許容量が大きくなります。
(しつもんマインド5)100%自分の責任
これはあくまでもマインドの話で、実際にすべての責任を負わなければならない、と言っているのではありません。物事を発想するとき、こういうマインドでいるほうが、よりよい発想ができる。ということです。
製品が売れないとき、製造部門と営業部門が互いのせいにして責任を押しつけ合っても、何ひとつ解決しません。しかし、「100%自分の責任」というマインドがあれば、相手を責めるのではなく、全体のために自分たちにできることは何だろうか、と考え始めます。
「100%自分の責任」マインドを身につけるワーク
まずは仕事の場面で普段から感じている不平、不満を書き出してみましょう。そこから「では、いま自分にできることは?」と発想してみましょう。
(しつもんマインド6)自分を満たす
自分の心が満たすことがなぜ大切か。実は、自分の心が満たされていないと、自分のためのしつもん、相手に褒められたいがためのしつもんをしたくなる傾向があります。相手の人は、あなたと関われば関わるほど心理的なエネルギーを吸い取られ、関わるのが嫌になってきます。まずは「与える」ことができるように、自分を満たしましょう。自分を満たすことなくして、他人のことを本当に想い、しつもんをすることなどできません。
ベストな状態は、仕事をすること自体が自分を満たすことにつながること。こうなれば、すばらしいですね。僕は常に「愛の選択」をすることをモットーにして、ストレスをためないようにしています。
「自分を満たす」マインドを身につけるワーク
どうすれば自分の心が満たされるか、しつもんをしてみてください。満たすとは精神的な充足度のこと。心を整える、という意味でもあります。
(しつもんマインド7)答えるより、考えることが大切
しつもんに対して、素早く答えることが重要、と思っている人が、わりと多くいます。しかし、答えがすぐに見つかるということはその人の内側に「変化が起きていない」可能性もあります。
しつもんで大事なのは「答え」ではなく「考える」こと。実は、脳というのは、課題を与えておくと、無意識のうちに答えを探し続けてくれる。この便利な機能を使わない手はありません。
「答えるより、考えることが大切」マインドを身につけるワーク
考えることは、思考のマンネリから抜け出すための必須手段となります。そのために、日常のいろいろなシーンで自分自身に「本当に?」と問いかけてみましょう。正解は無限にあります。
次回は、しつもん上手な「しつもん体質」になるための最良のトレーニング、「自分しつもん」についてお伝えします。
河田真誠氏の新刊『革新的な会社の質問力』
いい質問をされると、人は自動的にその答えを探そうとして、自分の「内側」にある答えへと導かれていきます。本書では「自分にしつもん」「部下にしつもん」「会議にしつもん」「お客様にしつもん」という4つの場面で、質問力を磨き、活用する方法をわかりやすく解説します。(日経BP社、定価1512円)
Powered by リゾーム?