40代以下の男性経営者に子育ての実践と哲学を聞き、男性の育児にまつわる新しい価値観を探る連載「僕らの子育て」。その書籍化に合わせて話を聞いたのは、12年前に父親支援のためのNPO「ファザーリング・ジャパン」を設立し、厚生労働省が掲げた「イクメン」の普及に貢献してきた安藤哲也さん。自身も3児の父として子育てに関わり続けている。
時代がひと回りする間に、男性の子育てシーンはどう変化したのか。子育てに深く関わることで、男性のライフ&ワークにどんな影響があると分かってきたのか。これから先の、男性の働き方、生き方の未来像とは。この分野を見つめ続けてきた安藤さんに語ってもらった。

『子育て経営学』に登場するのは、第一線で活躍するビジネスリーダーばかり。あえて「40代以下」という年齢層に限って取材をしたところ、面白い共通点がいくつも見えてきました。例えば、彼らはSNS(交流サイト)にごく自然体の日常として子育て風景を公開し、会社の会議や出張を“子連れ”でこなしたりすることに躊躇がありません。「働く」と「育てる」が自然とミックスされている印象を受けました。
安藤氏(以下、安藤):SNSの普及は男性の子育て参加を加速させている条件でしょうね。
昔は、「プライベートを一切見せずに仕事にまい進するのが男の美学」のように信じられていて、「娘の寝顔しか見ない生活をしていたら、いつの間にか成人しちゃったよ」という出世自慢が受け入れられる雰囲気がありました。つまり、男性の公私は完全に分断されていたんです。
今の若い経営者は、ネット上に日常の子育ての楽しさや苦労を公開することが当たり前。一般の会社員クラスだけじゃなく経営層のワーク・ライフ・バランスや、ワーク・ライフ・インテグレーションが可視化される時代となりました。
それを見た同世代やさらに若い層が、情報を蓄積して、「男性もキャリアをしっかり積みながら子育てできるんだ。それがカッコいいんだ」と信じられる流れができています。
僕自身は長女が今年20歳になりましたが、20年前にはデジカメもなくて、子育ての楽しみや感動を周りにシェアするにも手段が限られていましたからね。この変化はすごく大きいと思いますね。
安藤さんから見て、今の40代以下の男性たちの育児の特徴は。
安藤:「ワーク・ライフ・バランスを充実させるのは当たり前」という価値観がとても広がっていると思いますね。経営者ともなると、会食があったり、海外の取引先との深夜のオンライン会議などが頻繁に生じたりするものですが、うまく効率化をはかって子育てを諦めていません。
僕は朝の保育園送りを10年以上やってきましたが、年々、パパの姿が増えてきた印象です。
多忙でも子育てと仕事を両立しやすいツールやテクノロジーが増えてきたという環境変化も大きいでしょう。
僕はフルタイムで働く妻とのスケジュール調整は、生協で買った紙のカレンダーでやりくりしていましたが、自宅でカレンダーを見ないとお互いの予定を確認できないので連絡ミスも多かったんです。
今は「Googleカレンダー」のようなクラウドサービスを活用して、どこにいても夫婦で予定を調整し合える世の中になりましたよね。新米パパでも「なんとかやっていけそうだ」とスタートラインを切りやすくなっているし、非常にスマートに子育てを楽しんでいるのが、彼らの特徴だと感じています。
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