8月8日、子育て中のビジネスパーソンによる一般社団法人「Papa to Children(PtoC)」が設立された。台風13号が首都圏を直撃したその日、法人化記念イベントで登壇者が語った「これからのパパ像」とは――。
日経ビジネスオンラインでは、読者参加型の新企画、日経ビジネスRaise「提言・私たちの働き方」で「未来の子育て」を徹底議論中。PtoCのメンバーも参加し、「夏休みのパパの役割は?」「子育ての分担どうしてますか?」など読者からの率直な意見をお待ちしています。
日経ビジネスRaise「提言・私たちの働き方」
子育てしやすい社会の条件って何だ?
「パパたちが互いに等身大で悩みや思いをさらけ出し、彼らを支える場を提供していきたい。これが私たちのやっていくことです」
代表理事である川元浩嗣氏(Mi6代表取締役)のこの一言が、一般社団法人となった「Papa to Children(PtoC)」の役割をずばり言い表していた。
8月8日のPtoC設立イベントに集まった面々。台風直撃にもかかわらず会場はほぼ満員となった(写真:竹井 俊晴)
PtoCは「全国にかっこいいパパを増やす」をビジョンに掲げ、子どもたちが大人になることを楽しみだと思える時代を創り続けることを目的とした、「次世代パパ」による「次世代パパ」のためのコミュニティである。
有志団体としてリアルな父親世代の交流の場である「パパ未来会議」を原則として毎月開催してきたが、より多くの人が気軽に悩みや思いをさらけ出し、支え合う場を提供するため、一般社団法人として再スタートを切った。ベンチャー経営者や会社員など130人超のビジネスパーソンをメンバーとして持ち、今後は引き続きパパ未来会議を開催するほか、活動の幅を広げる予定だ。
「子育てする男性(メンズ)」の略語である「イクメン」が流行して早8年。男性による子育ては「日常」に変わりつつある。
子育てを「流行りモノ」として外に向けて声高にアピールするのではなく、よりリアルな生活の一部として位置付ける。父親に求められているのはこうした実直な姿勢だ。よりリアルな経験やスキルが求められるからこそ、「次世代パパ」には悩みや思いを共有する場が必要となる。PtoCは、こうしたニーズの受け皿になろうとしているように見える。
この日のイベントでは、PtoCのメンバーから「より等身大の姿を発信しよう」という意図が感じられた。まずは第一部で印象的だった発言を紹介しよう。
登壇したのは、PtoC代表理事の川元氏、同代表理事の柴田雄平氏(mannaka代表取締役)、同日発売した書籍『子育て経営学』著者の宮本恵理子氏(フリーランスライター)。モデレーターをPtoCパートナーの西村創一朗氏(HARES代表取締役)が務めた。
川元氏:自分自身、本当にダメパパだった。ただ長女を出産した後に、いわゆる「産後クライシス」があって、それを機に生まれ変わることを誓ったんです。
僕がどれだけどれだけダメだったか…。妻が産後に実家から帰ってきて、怒濤の育児が始まったわけですが、妻がおむつ替えをして子どもを寝かしつけた時、僕はコミック誌の『週刊少年ジャンプ』を読んでいた(笑)。それだけで妻からすれば殺意が芽生えると思うのですが、加えて妻が授乳する時に使うクッションを膝の上に置いて読んでいたという…(笑)。
今では、毎日朝食を自分が作って娘たちを保育園に送ることから1日がスタートしています。この5時半から8時半までが僕にとっては一番大事な仕事。平日週2回はお迎えに行って、週の半分以上は家族とご飯を一緒に食べて過ごしている。
経営と子育てを同一線上で語る
イベント第一部の登壇者。左から、西村氏、宮本氏、柴田氏、川元氏(写真:竹井 俊晴)
柴田氏:当社では、子どもを連れてアポイントに行ってはいけないという会社とは契約しないというルールを設けているんです。
当社では、この半年で6人ぐらい社員に子どもが生まれました。中には復帰したくても保育園に入れられないメンバーもいる。会社に連れてきても、アポイントのための外出がある。その2時間のために一時保育で預けるというのは非常に効率が悪い。だから社員の子どももアポに一緒に連れて行くんです。
宮本氏:日経ビジネスオンラインで連載している「僕らの子育て」で40代以下の経営者の男性にインタビューをしてみたいと思ったのは、この5年ぐらいで男性の子育てシーンがものすごく変わってきたから。自然体で子育てされている。恐らくSNSの普及が強く影響している。夫婦のパートナーシップも含めて、非常に新しい傾向が出てきている。
取材してみた実感は、「経営」と「子育て」を同一線上で語る方が多いこと。それがすごく面白かった。
西村氏:今日参加していらっしゃる方を含め、仕事が好きだったり、仕事にやりがいを感じていたりする人は多い。ただ、今って仕事とプライベートの切り分けが難しいんですよね。
FacebookやTwitter、LINEなどのSNSが浸透して、オンとオフの切り替えをパチっと切り替えられない。土日でもメッセが入る。プライベートでも仕事でもない、その中間のような内容のメッセが入る。家族とご飯を食べている途中にそのメッセにスマートフォンから返信していると、「また?」みたいな感じになる。
スマホはやっぱり(家庭内)エンゲージメントの大敵じゃないですか。だから僕は、家族で食事をしている時などはスマホを機内モードにします。プッシュ通知が来ないから。
もっとも、こうした子育て世代の男性による活動はPtoCが元祖ではない。
例えば「父親であることを楽しもう」の浸透を目的として2006年に設立されたNPO法人「ファザーリング・ジャパン」。年間300本を超える講演会・セミナーや、父親向けの講座、企業向けのコンサルティングなどを通して、父親の子育てを後押ししてきた。
今日がパパのターニングポイント
イベントの第二部では、ファザーリング・ジャパン代表理事の安藤哲也氏をパネラーに迎え、「ポストイクメン時代の父親像」をテーマとした議論が展開された。
宮本氏:安藤さんは、ファザーリング・ジャパンを12年前に立ち上げられて、全国津々浦々を行脚され活動されてきた。12年も前ですよ。
そのファザーリング・ジャパンの一員として活躍されている方が、PtoCのパートナーである西村創一朗さんだったりする。これまでとは違った形でPtoCがにょきにょきと現れて、その両者が出会った。何かこれもまた時代の流れとしてすごく素敵なターニングポイントになると思っている。
安藤氏:ファザーリング・ジャパンを立ち上げたのが2006年。その前に自分の仕事が非常に忙しくなって、育児との両立に非常に悩んでいたんです。妻もフルタイムで働いていて、どうしようと。
まだ「ワーク・ライフ・バランス」という言葉もなかった。自分でやるしかなかった。その時に、要するに仕事も育児も両方楽しめばいいんだ、とある意味開き直ったんですね。北欧やカナダの父親支援の取り組みを学んで、ネガティブではないメッセージが必要だと考えた。それで「ファザーリング=父親を楽しむ」という方向でこれまで進んできた。
僕が『パパの極意』という書籍を書いたのが2008年。10年の時を経て『子育て経営学』という書籍が出ているというのはすごく僕も今日、感慨深いものがあるし、こういうイベントも昔はずっとファザーリング・ジャパンが主催してやっていた。今日はPtoCが主催してくれている。やっぱり時代が進んできたなという実感があります。
二部では安藤氏に加え、PtoCメンバーである斎藤哲氏(オトナノセナカ共同代表)、同メンバーの沢木恵太氏(おかん代表取締役)も登壇。「理想の父親像とは何か」というテーマに対し、「男性の育児は質より量」(安藤氏)という持論が飛び交った。また、「保育園の送迎を近所の“パパ友達”とシェアする」「育児サービスをどんどん使う」「父親同士もSNSでつながり始めた」といった現代的な議論もなされた。
イベント第二部の登壇者。左から、沢木氏、斎藤氏、安藤氏、柴田氏、川元氏(写真:竹井 俊晴)
日経ビジネスオンラインは本イベントと連携し、「未来の子育て」を徹底議論中。普遍的なテーマに加えて、上記イベントでも上がった「子育てのシェア」「育児サービス」についても議論する予定だ。
本連載「僕らの子育て」が1冊の本になりました。新しい時代を担う若手経営者たちや、様々な業界のプロフェッショナルたちが、どのように「育児」と向き合っているのか。また子育てと仕事(組織運営や人材育成)との関係は――。
『子育て経営学』は、絶賛、発売中です。
また本書の著者・宮本恵理子氏が、『子育て経営学』出版記念イベントを開催いたします。
『子育て経営学』1章に登場する早稲田大学ビジネススクール入山章栄准教授を招いたトークイベント。
日時: | 2018年8月28日(火)19:00~20:30(18:45開場) |
場所: | 二子玉川 蔦屋家電 BOOK 2階 ダイニング |
定員: | 50人 |
詳細はこちらからご覧ください。
「『子育て経営学』発売記念トークイベントのご案内」
この記事はシリーズ「僕らの子育て」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?